現代女流書100人展 セントラルミュージアム銀座

このたび結婚を延期された眞子様もご覧になったという書展を見に、異国情緒一杯の銀座に足を運ぶ。毎日書道会主催の書展なので、案内も「大字」「かな」「近代詩」などに分類されている。会場に入ると客もスタッフも、圧倒的に年配の女性が多い。日本の書道会を支えているのが、この層なのだ。そういうニオイが会場に満ちている。書展を見るのは気力が要る。知り合いの作品でも無い限り、ただ漫然と書展を見に行くことはなかなか出来ない。だいたい何がいいのかよく分からない。感じようとしてもだいたいは文字があって何やら訴えてくる。なるべくじっくり見ないようにして、会場をさらーっと眺める。気になる作品には少し近づく。100人もの現代女性が書いた作品だったが、近づけたのは2,3枚。私の勉強不足のせいだが、目指している世界がピンとこなかった。今、「現代女流」というのも、古くさく思えてしまったし。早々に退散して賑やかな銀座の街角に戻ってちょっとホッとした。それにしても、眞子様。この書展をご覧になって、取り沙汰されている諸々を、ひとときでも忘れられたのなら良いのだが。

きゃめる 投げ銭ライブ 新宿ダブリナーズ

久しぶりに知り合いがご贔屓のアイリッシュバンドを聞きに新宿のアイリッシュパブへ行く。「きゃめる」は女の子4人のアイルランド伝統音楽を奏でるグループ。全員が東京芸大卒の才媛。見た目はほわ~んとしているのだが、演奏はキリリと男前。とりあえず「キルケニー」が喉を潤すと演奏が始まった。ホイッスル(笛)の滑らかな旋律がキルケニーと一緒に体の中に流れ込む。ブズーキ(弦)とバウロン(打)が笛に絡まってクルクルル、らせんを描いて走り出す。途中でフィドル(弦)が加わると笑っているような、ちょっと泣いているような微妙な感じになる。軽快なリズムと転調が重なるほどにめまいのような陶酔が襲う。2敗目はギネス。夜が更けていく。きゃめるの演奏が素晴らしいのはいうまでもない。私がなにより素敵だと思うのは彼女たちがとても幸せそうに演奏していること。今、演奏しているこの瞬間、瞬間が好きで好きでたまらない~っていう感じがいい。明日のことも、昨日のことも、頭を悩ますことは多いけれど、我に入り、我に包まれるこのひとときは、すべてを忘れていられる。無敵の時間。

磯田光一「永井荷風」(講談社学術文庫)

古い書棚から引っ張り出してきた色の変わった文庫本。「永井荷風」の評伝だった。荷風の生涯を、荷風の作品と時代、暮らしを丁寧に拾い出し、緻密に分析した一冊。荷風は裕福な家の長男として生まれ不自由なく育ち、若い時分はアメリカとフランスに渡っている。政府高級官僚から実業家になった父と、芸術・文学に傾倒した息子の荷風。十分過ぎる父の恩恵を受けつつ離れていく荷風。アメリカではのめり込んだ女性から逃れ。親の勧める相手と結婚してみたが早々に離婚し。馴染みの芸妓との結婚も長続きはしない。荷風は本当に「個」であり、「孤」を求めた。だからこそ、素人女性にはない「清廉さ」を玄人女性から感じ、なれ合いや束縛を忌み嫌った。ひきかえに孤独も不安も甘受した。貫いた。徹底した「個人主義」が偏屈で性格の悪い荷風を作った。筆者磯田氏は、荷風の幾重にもなる複雑な心理構造や行動を文献から丁寧に紐解く。過度な感情を入れることはない。ただ変人荷風の理解しがたい「純粋さ」を見せてくれた。磯田光一氏は昭和62年に亡くなっている。今から30年以上前だ。遠い昔の文庫本、色が褪せるはずだ。でも、今読んでも、心に新たな光りが当たった気がする。荷風自身が色褪せないのでもあるが、荷風に光をあてた磯田光一の分析にも、時代を越えたメッセージがある気がする。

平成30年大相撲初場所11日目 両国国技館

日本人と生まれたからには一度はお相撲をナマで見たいと思っていた。最近相撲に夢中な友人のおかげで、やっと相撲デビューがかなった。知らなかったが、国技館入口のもぎりの男性も館内で働く人もみんな親方衆だという。人気の振分親方、鳴門親方もいる。力士は引退後は国技館で働けるの?ミステリアス相撲協会。知らないことはまだあった。国技館は朝8時に開場。朝から夕方6時まで国技館で遊べる。地下に行けば300円でちゃんこも食べられる。国技館名物の焼き鳥も美味しい。国技館で焼いているらしく冷えてもイケる。人気力士の名前のついたお弁当もあるし、2階にはソフトクリームやパンケーキもある。午後2時半。国技館横で力士を見る。三役以上は地下の駐車場から会場入りするらしいが、それ以下は、国技館の横道を歩いて入場してくる。そこに張り付いて力士に声をかけるのが、「入り待ち」である。そうこうしているうちに幕内土俵入り。化粧まわしをつけたお相撲さんが土俵をぐるりと囲む。力士の輝くような体つきは美しくて壮観。続いて横綱土俵入り。今回は鶴竜ひとりで寂しい場所だが、さすが横綱、かっちょいい。白鵬稀勢の里を含め、10人も休場している場所だが、幕内の取り組みはそれでも楽しい。今回は結びに全勝の鶴竜玉鷲に負けて大盛り上がり。座布団が飛ぶ飛ぶ。最後は弓取り式。初のお相撲観戦が終わる。国技館は収容人数のせいか、両国駅にも総武線にも混乱はない。夕方6時に終わる大相撲は、老若男女楽しめるエンターテイメント。問題山積の相撲界だが、いついつまでも皆を楽しませて欲しいものである。高齢大国ニッポンの大事な娯楽として。

TBS 「アンナチュラル」

石原さとみは凄いなあ。彼女が出ているドラマはなぜだか見てしまう。華があるというか、演技がうまいというか、役柄にスポッとはまってドラマを引っ張るというか。今回は解剖医。両親が練炭で無理心中し、彼女だけが生き残ったという設定だ。「99.9刑事専門弁護士」の松本潤の設定と似ている。主人公は頭脳明晰な専門職。一見、脳天気に明るいのだが、過去が深刻、時々フッと闇を見せる。石原さとみの演じるミコトの同僚が市川実日子シンゴジラだね。窪田正孝は弱そうだが裏がある。日曜美術館井浦新は、暴力的な変人。上司は孤独のグルメ松重豊。脚本が「逃げ恥」の野木亜紀子。豪華なドラマである。99.9もそうだが、世間の網の目から漏れた者の叫びを拾い上げる救世主的なドラマ。救世主自身も痛みを抱えていて、大上段に構えるわけでも、過剰に微笑むわけでもない。ただただ自分も自分が生きるので精一杯で、あんたのことなんて考えているヒマなんてないんで・・・っていう態度で、埋もれた叫びや忘れ去られた苦しみを掘り起こしていく。今どきはこういう風に善行を行うのが一番スマートなんだろうな。上からでも横からでもなく。へりくだることもなく。

Stronger (2017)

ガールフレンドが出場しているマラソンのゴール地点で、彼女を待っている間に爆破テロに巻き込まれ、両足を失ってしまった男性の話を元にした映画。両足の膝から下を突然失った青年ジェフ。絶望した家族は、職場の人が面会に来ると、『一生働けない息子はどうしたらいいの!』と怒って追い返そうとする。しかし職場の人が保険があるので、サインをくれたらお金が出るよと言うと、家族の態度は一気に変わる。その上、ジェフはテロリストの顔を目撃していた。FBIが来て犯人逮捕。ジェフはテロに屈しない英雄、Boston Strongになってしまう。マスコミはジェフをヒーローとして持ち上げる。一方、事の発端のボストンマラソンに出場していた彼女のエリン。ジェフとの仲は冷めかけていたのだが、自分の応援で足を失ったジェフに同情&愛情が生まれ献身的に尽くす。ジェフはマスコミにちやほやされるほど、心はどんどん荒んでいく。そんな中エリンは妊娠。『子どもなんて持つ事は出来ないよ!』とジェフ。『じゃあ、どうすんのよ!!!』とエリン。ジェフは酒に溺れ、エリンは離れていく・・・。そんなある日転機が訪れる。ジェフは自分を助けてくれた男性に会って話をする。イラク戦争で息子を失ったその男性は、ジェフを救ったことで亡くした息子を救った気持ちになったという。無用な存在だと思っていた自分の存在が誰かの助けとなったと知り、ジェフは立ち直るきっかけをつかむ。いい話である。名演だし。生々しい現実とも向き合いながらも、もがく主人公の姿は心を打つ。それにしてもアメリカは勇敢な者を褒め称える。はからずもそういう立場になってしまった主人公の苦悩はゾッとする。障害を抱えて生きる人間を前にして、応援したいと思う気持ちの手前で、自分がそうならなくて良かったと思う自分がいる。そんなのはバレバレだから、そんなのお構いなしがいいのだが。些細なところでひっかかって身動き出来なくなっている自分も、まもなくそちら側に行く。

NHKドラマ10「女子的生活」

面白い。最近はLGTBが話題にのぼることが本当に多い。このドラマでは志尊淳がトランスジェンダーの主人公ミキこと幹生を演じている。かわいいし、見事に今どきの女子になっている。女装している男性ではない、立ち居振る舞いが完全女子なのだ。女性の格好だが、体は男性、そして好きなのは女の子という、ちょっと複雑な役柄だが、志尊淳がとてもいい。そのミキの高校時代の同級生で同居人の後藤君を演じているのは町田啓太。おバカだが可愛いげのある役で、今回は彼にぴ ったりだ。全四回の三回目はミキが故郷香住で、父と兄に再会する回だった。家族だからこそ許せないこと、家族だから摩擦を生んでしまうこと。家族だから溜まった膿を吐き出し傷つけあってしまうことなどなど。ラストで香住のカニを食べるシーンはそんなややこしさをとりあえず抱えながら生きていくミキと、それを応援する後藤君が良かった。ジーンと来た。このドラマ、ミキの声がハッシュタグ付きで画面に文字が出る。それがセンスいい。田舎で気弱に生きているテキスタイルデザイナーの女の子の微妙な自分に対する態度なども繊細で面白い。久しぶりにガッツリ見てしまったドラマ。おすすめ。