司馬遼太郎「項羽と劉邦」

司馬遼太郎の作品の中で唯一の外国モノである。上中下の3巻あるが、あっと言う間に読んでしまった。面白い。語り口調は冷徹で痛烈。ジオラマでも俯瞰したような視線だ。登場人物は項羽と劉邦と周りの多くの人々。無能ゆえに登りつめる劉邦と、誰よりも情に篤いが誰よりも残酷な猛将項羽を、対照的に描いている。史実自体の面白さに加え、時系列を微妙に前後させ、人間の気質を丁寧に描き、歴史の大きなうねりに読者を引きずりこむ。まさに筆の力だ。それにしても人望とは、優秀さとは別物なのだとなあとしみじみ思った。結局、人々に愛される力が、神にも愛される条件なのかもしれない。読みながらいつもの癖で、「この人は何座かな?」と想像してしまった。項羽はかに座、劉邦はてんびん座、韓信はやぎ座かなあ。ちなみに、作者司馬遼太郎はしし座。さすがエンターテイナーである。