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さよなら 渡瀬恒彦

14歳から好きだった。テレビ版「白昼の死角」の鶴岡七郎役で好きになった。「皇帝のいない8月」でクーデターをおこす若き自衛隊員、「セーラー服と機関銃」の薬師丸ひろ子ちゃんとキスする若頭、『時代屋の女房』の夏目雅子を愛する骨董屋さんと、何を演じても色っぽかった。ここ最近ではNHK朝ドラ「ちろとてちん」だ。主役の貫地谷しほりも上手いが、ほんまもんの落語家の桂吉弥に、大蔵流狂言師茂山宗彦という出演者の中、落語家の師匠を演じるプレッシャーは相当だっただろう。茂山宗彦演じる小草若が泣きながら寿限無をやっていると、渡瀬演じる父草若が突然代わりに高座に上る。地獄八景亡者戯。鳥肌がたって涙が出た。なんて朝から濃厚な15分なん?と何度思ったことか。整った顔立ちだけでなく、立ち居振る舞いにも品があった。凶暴な役ほど孤独な内面を感じさせたし、優しい瞳の奥に厳しさも見せた。情熱と冷徹さを同時に体現できる人だった。なにより、声がよかった。あの声で何か言われたら、間違いなく気を失う自信があった。ああ、どれだけ誉めても足らない。渡瀬恒彦の訃報を聞く時が来るなんて思わなかったが、歳月は容赦ない。生きていくことは喪失を重ねることかぁ。長生きって大変。