テオ・ヤンセン展 三重県立美術館

オランダの彫刻家テオ・ヤンセンのストランド・ビーストを見に行った。彫刻家と言っても作品は帆をつけた船の骨格のようなもの。オランダ語でストランドは砂浜、ビーストは生命体。テオ・ヤンセンが作った造語で、砂浜の人工生物体という意味だ。黄色のプラスチックの細い筒が骨格のように複雑に組み合わさっている。細い透明の管が血管のようにその骨格に張りめぐらされている。骨格のてっぺんには帆がある。帆に受けた風の圧力が管を通って骨格全体を動かす。無数の黄色の管で出来た足が次々と前と繰り出す。動きは「風の谷のナウシカ」のオウムだ。むかでのような足、大きな船のような帆、マンモスのような骨格が、潮風を受け砂浜で動きだす。海岸で風を集め、動き出す動画はなんとも奇妙だが美しい。動き出すと無機的な立体物が突然いのちを帯びるからだ。テオ・ヤンセンはアーティストに転身する前は物理学者だったらしい。風を動力に変換していく仕組みには緻密な計算があるのだろう。会場では実際にデモンストレーションがあり、ストランド・ビーストを動かしてくれる。動きは予想以上に速い。おおおお。ちょっと間近で見ると感動がある。立体作品は二次元の絵にはない広がりがある。その上、これは動く。ふしぎだ。「生きもの感」があるのだ。ビーストのひとつ、向かい合った1対の作品があった。首先が互いにシンクロして動く。アホウドリのペアが求愛しているみたいだ。風で動くストランドビースト、未来の生き物のようで、同時に大昔の生き物みたいでもある。「時」を突き抜けた「力強さ」とでもいうのかな。「いのち」というものも、案外そういうものなのかもしれない。