前野ウルド浩太郎 「バッタを倒しにアフリカへ」 光文社新書(2017)

表紙の人は著者だろう。緑の民族衣装にバッタの被りもの、手には虫取り網。バッタを愛して、バッタに食べられたいと願うバッタ博士のお話だ。アフリカで時折、大量発生して深刻な被害をもたらすサバクトビバッタ。その研究に、西アフリカモーリタニアに行ったバッタ博士の汗と涙の青春物語。文章はとても読みやすい。ポスドクの椅子取りゲームから異国で出会うさまざまなエピソード、そしてバッタの生態。ちょっと青臭いが素直で面白い。著者は人生の大事な転換期に、何も知らない途上国でいつどこで発生するかも分からないバッタの大集団に人生を賭ける。もうそれだけでワクワクする。著者が研究するサバクトビバッタ自体も面白い。体長は約5センチ。意外に大きい。何かのきっかけで何千万、何億匹という巨大な群れになり、大地を高速で移動していく。その姿は砂漠を這う黒い煙。バッタが通過した場所は草木が食べ尽くされ、農作物は全滅。2004年のモーリタニア周辺で発生したバッタ集団の農被害はなんと25億円。日本も3.3億円の資金援助をしたらしい。サバクトビバッタは単独でいるときは緑の大人しいバッタだが、集団になると、体色が変化して黒と黄色の凶暴なバッタになる。群れると体色も生態も変わるのだ。群集心理?群れると変わるのは人間も同じかも。遠い西アフリカのモーリタニアで、途方もないバッタ問題に挑むことは、京都大学の総長がいうように、その苦労はいかばかりかだし、感謝に値する。世界は広い。飛び出せる人は海を渡って翼を広げた方がいい。リスクはあるし、安定した老後は送れないかもしれない。でも見たこともない世界、想像だにしなかった自分を発見するかもしれない。たとえすべてを失ったとしても、人生は喪失と獲得の繰り返し。多くを得れば、多くを失う。持てる荷物には限りがあるのだ。さぁて、モーリタニア、ちょっと行ってみたくなった。