井上ひさし「私家版 日本語文法」新潮文庫 初版昭和59年

井上ひさしの日本語の本。私家版なので、文法学者じゃないけど自由に物を言うぞとの宣言らしい。博識な井上ひさしのやや慇懃な物言いも面白いのでだんだん気にならなくなる。彼の言葉に対する貪欲な好奇心と繊細さに驚くばかり。言葉の底辺に流れる「自由平等」の精神みたいなのもいい。反骨精神。偉ぶりたくないから、例文は卑近なものをいれる。ニヤリとさせたいのだ。日本語文法に特に興味もなくても巧みに引き込まれていく。随分昔の本だが、今読んでも楽しい。心に残ったのは、言葉は本来うそつきだということ。主観的な感情も言葉にすると客観的になる。別なモノになる。胸の思いも言葉にした瞬間に軽くなってしまう。言葉はそういう質なのだ。言葉は時には武器に、時には自分を守る盾にもなる。甘い気分も奈落の底の恨み言も、全部私達の心から出て飛んでいく。言葉を大事にしていきたい。上手に嘘もつきたい。いろいろ大事にしていきたい晩秋である。