梅原猛「中世小説集」新潮文庫(1993年)

梅原猛さんが亡くなったのでこれも読んだ。読みやすい。するすると中世の説話の世界に吸い込まれる短編集。「首」は最後は血みどろの首が戦う、おどろおどろしい話だか、途中、鉄柱にしなだれかかった女が鉄の玉を生むという話など、なかなか色っぽくてぞくぞくした。中世ならではの、わけわからん、なんでもあり、の世界だ。「物臭太郎」もいい。物臭な男が無為な暮らしを続ける。3年が過ぎると、小さなきっかけで事態が転がり大きな実を結ぶ。「三年寝たろう」みたいな話で、心理学の河合隼雄さんを思い出した。ただじっとしていることも必要。高く飛ぶには低く沈むというか。無為を決めこむ勇気というか、人生万事塞翁が馬だね。「蓮」も切ない。法然上人の念仏の教えを無邪気に信じた武人が純粋に極楽浄土に向かう姿勢にうたれた。宗教はそんな無邪気さから芽がふくのかもしれない。どの話にも底を流れるのは、梅原氏が探し続けた日本人の源。決して美しいわけじゃない。結構図太く逞しい。スマホに疲れたり、雑踏でぶつかったり、わけもなく元気が出ないとき、読むといいかも。「これでいいんだよ。」遠くからそう言われた気がした。梅原猛様に感謝をこめて。合掌。