橋本治「桃尻娘」講談社文庫 初版1981年

この題名の艶めかしさで当時は読まなかった。でも橋本治さんがお亡くなりになって手に取ってみた。面白くて、するする読めた。私の好み。もっと早く知っていればよかった。最近そういうことが多い。若いころは何をしていたのだろう。今から思うとつまらないことに翻弄されていたのかもしれない。これも世の常。死への距離が縮んできて初めてあーしておけばよかったと思うのだ。最初から最終目的地は分かってはいるのだが、肉体の衰えが来てやっと実感がわく。肉体とは対称的に、精神は大して成長しない。桃尻娘の榊原玲奈の心の声と大差はない。今でいうJKの心境をその言葉で綴ったこの小説。書いたのが中年の橋本治氏だった。文体とはふしぎなもの。文体がこれだと軽い。どうしようもない軽快さに走りながら感じるのだ、深い味わいを。ここで展開されている日常はどんな日常にも通じる。高校生の少年少女の心は、初老の心におきている真実と矛盾と、なぜか見事に一致する。桃尻娘にシビレた。特にお気に入りは温州蜜柑娘かな。今からではもう遅いのだけど、目的地に着くまでゆっくりやろうと思う。明日到着するかもしれないけれど。それはそれでいい。