井上靖「西域物語」新潮文庫(昭和52年初版)

中央アジアに行ってみたい。漠然と以前からそう思っている。シルクロードという魅惑的な言葉を聞くと今も喜多郎の音楽が耳に流れる。井上靖天平の甍や敦煌のせいかもしれない。なぜか心ひかれる西域の話を読んでみたくなった。井上靖の文章が好きだ。大き過ぎず、劇的過ぎず、ちょうどよい具合のロマンがある。読んで特に行きたいと思ったのはイシククル湖だ。湖の底には都市が沈んでいるという。美しい湖だけが歴史を知るか。西域はたくさんの歴史を語ることなく多くを謎のままにして、現在に至っている。付録のアフガニスタンの話にバーミヤンの石窟の話がある。タリバンが破壊したことで有名になったが、この辺りは蒙古やアラブの侵攻で何度も破壊されていたのだね。最近亡くなった中村哲医師のことも思い出した。殺戮のやまない大地ゆえに、祈りがまた生まれるのだ。本は古い。この辺りも今はだいぶ様子が違うのだろう。ただ果てしなく大地は続くし、過去から現在につながる悠久の歴史は不変だ。私自身が砂と化してしまう前に西域の夕日を浴びてみたい。