日本テレビ「リモラブ」

波瑠主演のラブコメ。コロナ禍の今をドラマにしているので、出演者も皆マスク着用シーンが多い、またソーシャルディスタンス、密など今年の言葉が飛び交う。会社の産業医の美々先生と、人事部の青林君、五文字君の恋愛を中心に、青林君らの上司の及川光博精神科医江口のりこの恋愛やら、新人看護士君たちの恋愛も一緒に進展、各世代の恋愛が一望できるドラマ。次回で最終回。今季のドラマではかなり好き。よく練られたセリフだし、コロナ禍の日常も今年らしいし。顔半分隠れての演技もいい。波瑠は「G線上のあなたと私」も良かった。あんなに美しいのに、モテてない女性を演じても違和感がない。「あなたのことはそれほど」のときは、調子の良い女性を演じてきたし。演じる役にちゃんとはまる。波瑠の相手、青ちゃんの松下君と五文字君の間宮君の仲良し会話を聞いているとなんだか幸せな気分になる。大袈裟じゃなくて日常のちょっとした心の通い合い、今、欲しいのはそういうドラマかも。いろいろ面倒な毎日だが、小さな幸せを確認しながら心あたたかくしていたい。

森達也「私たちはどこから来て、どこへ行くかー生粋の文系が模索するサイエンスの最先端ー」ちくま文庫(2020年)

森達也さんという人は映画監督で作家らしい。映画も見たことないし、本も読んだことがなかった。これは文系の彼が科学の最先端の研究者たちとの語らいをつづった本。研究者たちのラインナップにひかれて読むことにした。今から5年ほど前、雑誌に連載されていた話をまとめたものらしい。モノを知らない者には最先端が5年位ずれていても最新には変わらない。一番心に残った、団まりなさんがもうお亡くなりになっていた。細胞の意思という話は面白かった。自分が女性だからかもしれないが、彼女の話が一番スッとふにおちた。科学の最先端に行けば行くほど話は哲学的になる。宇宙を突き詰めていくと、最小のものに当たる。最大が最小で、ミクロがマクロに繋がっていく。知れば知るほど、分からないことばかりだと知る。結局、細胞たちが生まれて死にゆくように、私たちもやがて死ぬ。遺伝子を残す残さないも大きな生命力の流れから見れば大した話ではない。残した遺伝子でさえやがて次の遺伝子と重なり、やがて消えていく。自分たちがどこから来てどこに消えていくかを考えると、日常の些末なことに一喜一憂してしなくてもよくなる。同時に一喜一憂することに生命の醍醐味も感じられる。日常こそ尊いのよね。命あるうちに。さあ。参りましょう。

白井聡「武器としての『資本論』」東洋経済新報社(2020年)

ラジオの番組に出ていた時の直截な物言いにひかれて、読んでみたいと思っていた本だ。マルクス資本論なんて、自分には関係がない世界だと思っていた。武器としての資本論武装しないと生きていけないのかと思ったが、誰でも何かで武装している。さて、武器になる「資本論」の文章は分かりやすく、適切な例示のおかげで途中で迷子にもならず、最後まで読めた。学校で教わった言葉、資本主義、封建時代、社会主義など、実はそういう意味だったのかと感動した。随分ボーッと生きてきてしまった。今の社会問題である分断や貧困の正体もこの資本主義という巨人が起こしているらしい。暴走する巨人は私たち個人の小さい力では敵うわけない。ただ手をこまねいて、自分が悪いと悲観している若い人に読んでもらいたいかも。君は悪くない。悲観して自殺する人が減るといいのだけど。そういえば、作者白井聡さんはユーミン老害だとか、早く死ねばいいとか、いうような言葉を放って物議をかもした人である。国民的教祖ユーミン様に暴言を吐いたので、四方八方から叩きのめされたことだろう。ユーミンは怒っていないから、あんまり懲りずに、これからも言いたいことを言ってほしい。資本主義という巨人と戦うためには、こういう人も必要だと思う。

太宰治「人間失格」新潮文庫(1952年初版)

読むものがなくなったので、無料の電子図書を読んだ。人気アイテムの上位にあるから今も人気なのだろう。若い頃一度読んだ気がしていたが、何一つ覚えていなかった。主人公の葉さんはお利口な甘ったれ。いつも自分のことで一杯で、演じることで外の世界と関わりを保つ。しかし何一つ自分の意思で動くことはない。弱虫だけどずる賢い。今の私たちにも通じるのはここ。みな人間失格なのか。以前は太宰治が好きな人が苦手だったが、今は多少理解てきる。文章も滑らかだし、話も面白いし、テンポがいい。青臭さも若さゆえ。冷静すぎる自己分析も若い甘さの裏返し。老齢の太宰が存在しないことを、ご本人が一番気づいていたのだろう。天才とは見えすぎてしまうのだね。夭逝した天才に憧れているうちに、もういつ死んでもおかしくない年になってしまった。良い意味でも悪い意味でも特別な人は少ない。多少ダメが普通。悲観せず、図々しくしててもいい。これでいいのだ。バカボンのパパはいいこと言っていたな。赤塚不二夫さん。やっぱり天才。

エマニュエル・トッド 訳者:大野舞「大分断 教育がもたらす新たな階級化社会」PHP新書(2020年初版)

フランス人の歴史人口学者の有名人、エマニュエル・トッドさんの本。コロナの第一波がおさまった頃に出された。高等教育が人々を階層化させ、エリートと大衆の分断が起こったという話から、トランプ政権、EUドイツのこと、日本のこと、特に今のフランスのことについて詳しく書かれている。以前に聞いた、家族形態から民族の歴史を紐解いていく話は目から鱗の面白さだった。その時の感動が大きかったせいか、この本の読みごたえはいまいち。翻訳の特有の語り口調のせいか、はたまたこの本が寄せ集めの薄い本のせいかはわからない。トッドさんによると、民主主義は教育レベルが均一な時に最大の力を発揮するらしい。確かに教育レベルがバラバラになった今の社会は民主主義は機能していないのかも。あんなにダメな安倍政権から、これまたダメそうな菅政権。日本のお利口さんたちはもう政治家なんかにならないんだね。みんな優良企業で高給を貰って、自分の子どもたちに十分な教育を受けさせて、階層を維持する。私がお利口さんなら、私だってそうする。そうして我が国日本は少子化が一段と進み、移民は入れず、世界一の超高齢社会となる。ゆえに人口減少弱体化はいたし方ない。エリートたちはどんどん無能になって、大衆は搾取され続け暴れだす。これが今のフランス。日本人も、もっと怒って暴れてもいいはずだが、力も気力も不足気味。そういう私もおとなしい。トッドさんの予想通り、日本の分断がフランスほど進まないといいのだが。実際のところ、溝はすでに深く、見通しはどこまでも暗いのかもしれない。とりあえず悲観していると少し安心だ。

 

「全裸監督」(2019)Netflix

今頃見ている。山田孝之村西とおるを演じて話題になったNetflixの作品。全8話。面白くて一気に見てしまった。エロを描くことに邁進する村西とおる山田孝之がまさに体を張って演じている。白いブリーフでカメラを持つ姿が目に焼き付いてしまった。村西さん本人をよく知らないのだが、アメリカで捕まっていたんだ。よく帰ってこれた。黒木香さんが世間を騒がせていた頃、日本は浮かれていた時代だった。あの頃の熱気は何だったんだろう。日本はあれからあとは落ちる一方。弾けたバブルの残骸から荒廃が始まったのかしら。今じゃ借金一杯、嘘一杯の国になっちゃった。村西さんも黒木香さんも時代の寵児。今はどうしているのだろう。女性はあれぐらいから多少は解放され、今に繋がっているのかもね。女性が外で働くことは圧倒的に増えたけれど、オジサン化した女性が増えただけのような気もする。性はそれほど開放的になったようにも思えないし、ワキ毛もみんな剃っている。妊娠中絶の処置は未だに掻爬が主流らしいし、緊急避妊薬はあまり広まらない。政府は女性活躍のお題目を唱えているけど、コロナで女性たちは自ら死んでいく。我が国はどこまで堕ちていくのだろうか。もう止められないの?あの頃のように。

吉原高志・吉原素子編訳「初版 グリム童話集」白水社(1998年初版)

グリム童話は初版から半世紀ほどかけてグリム兄弟によって何度も書きかえられている。現在の私たちがよく知る物語は第七版をもとにしているらしい。その初版から選りすぐったものを集めた本がこれ。残酷だったり、お行儀が悪いのやらあって、童話らしくなくて面白い。キレイな扉絵やおしゃれな挿絵もあって気分は中世。お馴染みの白雪姫も赤ずきんちゃんもシンデレラもみんなグリムだったのね。ヘンデルとグレーテルは、初版本を読んでいたら、映画「鬼畜」を思い出した。気の弱い旦那さんの緒形拳が、怖い嫁の岩下志麻に言われて子どもを捨てに行く映画。ここでもお父さんが奥さんに言われて子どもを捨てにいく。どの話も善悪がぐちゃぐちゃで未開な感じがする。そもそも善悪はそういうものかもね。子どもの頃、腕時計がディズニーの白雪姫だった。祖父からの贈り物で、いとことお揃いだった。彼女のはシンデレラで、当時はいとこがうらやましかった。だが、今は白雪姫が好きだ。あのうかつな感じが好き。どちらも母に疎まれ、最後は王子様に見つけられて幸せになるのだが。白雪姫、初版では最後に母親が火で熱くなった鉄の靴を履かされて死ぬまで踊らされて終わる。残酷な結末だ。子どもが読んだらどう思うのか影響はわからないが、そもそも子どもは残酷な生き物だ。残酷さは純粋さと背中合わせで存在するのかもしれない。不純な方が攻撃力は弱いってこと。子どもをなめちゃいけない。