四谷にはよく来ていた。東京に来て間もないころ、四谷は私にとっての東京代表だった。しんみち通りを少し行った雑居ビルの地下にお店はある。鳥久にはよく連れてきてもらった。焼き鳥の美味しい店があまりないこと、鳥久に来なくなってから知った。久しぶりに訪れたが、カウンターの向こうには懐かしい顔があり、少し時間が戻った気がした。突き出しは、「もってのほか」という、菊の花びらを合えたもの。一緒に来た仙台出身の人がその名前を教えてくれた。串は相変わらず全部美味しい。サラダ、まいたけのてんぷら、秋田のいぶりがっこ。日本酒は長野の真澄を頂く。なみなみと注いでくれる。飲んで食べているうちに思い出すこともある。もう手の届かない話で少し切ない。最後に鳥雑炊を頂いたら、そんな切なさもわからなくなった。次の四谷はいつになるだろう。また来ますねと店を出た。あの日もそんな感じだった。