NHK ETV特集「加藤一二三という、男ありけり」

話題の「ひふみん」こと加藤一二三九段のドキュメンタリーだ。「ひふみん」の存在を知ったのは、少し前に見たNHKの「ノーナレ」という番組だった。タイトル通りナレーションが一切ない番組で、インタビューと映像でつないでいた。その形式も良かったが、その番組で、私も「ひふみん」が好きになってしまった。今回のETV特集は、「ノーナレ」の内容に話題の最年少天才棋士藤井聡太との新しい映像などを加えての再編集ものだった。「ノーナレ」の時に見た映像がたくさんあったが、あらためて見ても感動した。ひふみん伝説も面白かったし、彼の人柄も素敵だし、ひふみんの奥様の桜の花びらの話も、ググっときた。羽生さんが「人知を超えた世界」というのも納得だ。ひふみんも今の藤井聡太四段と同じように、天才棋士として14歳から将棋の世界に入った。そして77歳。先頃ついに引退した。敬虔なクリスチャンで、教会で大きな体を丸くして祈る姿は印象的だった。神から与えられた将棋という才能を存分に生かさないといけない。神様を先回りしてはいけない。だから自分から将棋を止めることはできない。まさに神の前でこうべをたれ愚直に従う姿は信仰のあるべき姿だ。誰にも負けない純粋さがあったからこそ。負けても負けても戦い続けられたのかもしれない。東の正横綱になった人が十両まで落ちて勝負をする人はいないという。頂点を極めた人間ほど、底辺まで下れない。あの柔和な顔に勝負に生きてきた人間の「すごみ」がある。桜の花びらは散っても美しい。ぱくぱく美味しそうに鰻重を食べる姿もいとおしい。人は心持ち次第で、美しく強く生きていくことができるのだと。ひふみんに教えてもらったような気がする。ちょっと幸せな気持ちにさせる番組だった。