映画「三月のライオン」(前編・後編)(2017)

長いフライトに任せて、前編・後編を一気に見ることができた。お気に入りの神木隆之介君が主演。繊細だが、切れ味鋭い主人公桐山零を演じる。家族全員を交通事故で失った桐山零は父親の友人の棋士の元で育つ。養父には同じ年頃の姉と弟のふたりの子どもがいて、彼はそのふたりと共に棋士を目指した。姉の香子が有村架純。これはミスキャスト。彼女の甘ったるい顔が、父親であり、棋士である豊川悦司に毒づき、棋士伊藤英明と不倫し、自暴自棄になる娘の役にはどうしても見えない。二階堂ふみなら違和感なかったかもしれない。凄いのは、一瞬誰だか分からないほど太った染谷将太。まんまるの奇人、二海堂になりきっていた。棋士の島田を演じた佐々木蔵之介も良かった。頭をかきむしって心身消耗する姿には鬼気迫るものがあった。そしてトップ棋士宗谷を演じるのが加瀬亮。なんともいえない異様な雰囲気でゾクゾクさせてくれた。伊藤英明のキレキャラも、伊勢谷友介の駄目ブリも、ひなたちゃん演じる清野果那の可憐さも、それぞれが際立っていて前半後半4時間があっという間だった。将棋ブームの昨今、若き天才棋士、藤井4段の姿と神木君の桐山零がかぶる。映画の世界から現実の世界が透けるようだ。将棋を知らない人間にも勝負師たちの身を削るような日常が見えてくる。勝負の世界は年齢など関係なくて、少年から、中年、初老の男性まで、皆、孤独な戦士だ。男たちがとてもかわいい映画だった。