三木清「人生論ノート」新潮文庫

人生も後半戦。下り坂に入り、三木清の「人生論ノート」を読んだ。昭和16(1941)年の本である。哲学者三木清が人生のいろいろなテーマについて語っている。難解さは少しあるが、短いので読めた。執筆時は治安維持法の時代。苦心して言葉を選んでいると後から知った。死について、幸福について、懐疑、孤独、噂、虚栄、旅、娯楽などなど。時代を越えて語りかける言葉に震えた。「幸福を武器としてもって闘う者のみが倒れてもなお幸福である」「鳥の歌うが如くおのづから外に現れて幸福は他の人を幸福にするものが真の幸福である」と。しびれる言葉が続出。本の最後に青年期(1920年)に書いた「個性について」の小論が掲載されている。「幼稚な小論」と本人は言っているが、まっすぐ天に伸びる若木のように、瑞々しく力強い。それから四半世紀。戦後まもなく刑務所で三木は亡くなる。享年48。病死だった。もっと生きるべき人だった。薄っぺらい本だ。だがその中に本物の知性の迫力があった。すぐ忘れちゃうから何度でも読まないと。大切なことは見失いたくない。闇を照らす一冊。