白洲正子「日本のたくみ」新潮文庫(初版1984年)

白洲正子が日本の工芸品作家を訪ねるエッセー。彼女の審美眼の高さは言うまでもない。驚いたのは、彼女でさえも職人さんたちに取材するのは困難だったということだ。美貌とお金。好奇心と行動力。元華族のお嬢様でも駄目は駄目というのが、ちょっと嬉しい。職人の一途というか、世俗から距離を置く人間たちの矜持というか。俗にまみれているとあこがれる。かなり古い本なのだが、登場する人の何人かは今もご存命。私でも知っている有名人もいる。さすが。工芸品がいいのは暮らしに取り込めるから。生活とは縁遠いところで輝くものもあるが、杓子や器、着物、砥石など、日常にあるのが嬉しい。男の人は収集したいらしいが、女の人は使いたいらしい。男女差は面白い。先日、亡母の鏡台からつげの櫛を持ってきた。使ってみると静電気は起こりにくいし、髪はさらさら。プラスチックのブラシは捨てた。忘れていたものが自分に帰ってきたようだ。大切にしなきゃいけないものを思い出せて良かった。色々私たちは見失っているからね。