柳宗悦「手仕事の日本」岩波文庫(1985年初版)

民芸の柳宗悦の日本の手仕事の本。昭和10年頃の日本の手仕事の状況を記している。北から南へ丁寧に辛辣に綴られている。芹沢銈介さんの挿し絵もあって分かりやすく楽しい。あれから90年ほど過ぎたわけだ。この中のどれくらいの手仕事が消えていってしまったんだろう。効率が優先されて、時間や手間を要する手仕事が継承されなかったのも仕方がなかったのかもしれない。近代から現代へ、いろんなしがらみや不条理が消えたと思ったら、また別のゆがみや憎しみが生まれていた。合理的で平等で豊かな社会を目指していたはずだが、気がつけば、世知辛くて無責任で格差が広がった社会の中にいる。なんらかの天命ではないかと思うほど、世界は新型コロナウイルスで翻弄されている。今までにない世界の始まり。やがてくる新しい世界では私たちは失った何かを再び手に入れるやもしれない。だが、その前に自らが消えているかもしれない。大きく何かが変わろうとしている今、手のひらをみつめて、問いかけてみる。何ができるのだろうと。この手でできることに今は愛情をもちたいと思う。もうそれくらいしかない気がする。