藤沢周平「闇の穴」新潮文庫(昭和60年初版)

通勤で読んでいたが、今はお風呂で読んでいる。困ったときの藤沢周平。馴染みの居酒屋のように、安心して楽しめる。短編集で今回はちょっと薄幸な話や、民話的な話が入っている。海坂藩モノとは違う味わいがある。変わらず市井の人々の感情を細やかに描いていて、こうした災厄の時期にあって、不自由な思いを感じる日々には一層しっとり心にしみる。女性目線の話があった。「闇の穴」「夜が軋む」だ。女心の細やかなうつろい具合が素晴らしい。でも同時に藤沢周平という人は怖い人だなあと思ってしまう。心を読まれて裸にされてしまうのが怖いのだ。わかってほしいという気持ちもあるが、ばれてしまう方が怖いという気持ちがいつも少しまさる。心のガードをあげて守っている。自分の孤城に閉じこもってしまう性癖があるのだが、まさに今の現実はそういう状態だ。不思議な感覚。誰とも接触せずひとりでいること。今はこれが良しとされるわけだ。疫病蔓延の2020年。今後どうなるかはわからないが、新たな時代の始まりだと思う。