宮部みゆき責任編集 松本清張傑作短編コレクション上 文春文庫(2004年初版)

昭和の巨匠松本清張を読みだしたら、BSで松本清張のドラマが始まった。偶然というよりも、読んでいるから目に留まったのかもね。宮部みゆきが選んだ短編作品が上中下の3巻にまとめられている。宮部みゆきの前口上が効いていて、清張を知らない読者も巧みに誘ってくれる。その1巻目。初期の作品『或る「小倉日記」伝』は芥川賞を受賞してたんだね。森鴎外の小倉滞在時の話で、松本清張の原液みたいな濃厚な味わいがあった。ノンフィクションとしての作品として、昭和史発掘・二二六事件、追放とレッドパージが選ばれている。私には読み応えがありすぎた。政府や軍部によってキレイに隠された話を細やかに冷静に暴き描いていく。表面に出ている事実はホンの一部なのは今も昔も同じだが、今、こうやって詳らかにしてくれる人はいるのかなあと思う。どの作品にも流れる昭和の空気。高度経済成長の日本の中でこぼれ落ちてきたものに対する清張の視線を感じる。カッコいいし、胸に迫る。世間のレールから外れ落ちていくのは自分のせいでもある。でも自分だけのせいではない。世界が変わりつつある今、上っ面に流されないように。深層を見つめていかねばね。今、松本清張と出会うのも何かの誘いかもしれない。そう思って上巻が終わった。