「我等、同じ船に乗り 心に残る物語ー日本文学秀作選 桐野夏生編」 文春文庫(2009年)

桐野夏生が選んだ日本近代文学の短編集。東電OL事件の「グロテスク」の作者が選ぶ作品集は予想通り教科書には載らないようなものも多かった。林芙美子菊池寛など、そもそも手に取る気もおきない作家の作品もおかげで読むことができた。意外に菊池寛が面白いのも発見だったし、林芙美子はやはり予想通りと確認もできた。冒頭は「死の棘」島尾敏雄&みほ夫婦の作品。夫婦のことは二人にしか分からないが、ふたりの縁は美しくあり、恐ろしくもある。どちらにしろ夫婦は「家族」という闇の核である。江戸川乱歩の芋虫も夫婦のお話。両手両足を失った傷痍軍人の夫と世話をする妻。最後は古井戸にぽちゃん?やっぱり闇である。夫婦も家族も、はるかに超越した世界が、澁澤龍彦の「ねむり姫」。おとぎ話のようで怪奇小説でもある。時間も空間もループしていて入れ子状態でつながっていく世界は独特な読み口で読みごたえもある。新鮮。最後は谷崎潤一郎の「鍵」。20歳代以来の再読だが、あの頃には見えなった「老いと性」を今回は堪能した。当時80歳近くまで生きた谷崎潤一郎。学びは多いね。近代日本文学にもまだまだ知らない世界がたくさんある。知るは楽しい。新しいものも素敵だけど、古くても知らなければ新しい。自分自身が古びてきたからそう思うのかもしれないけど。