陳舜臣「中国の歴史(一)」講談社文庫(初版1990年)

「弥縫録」以来、陳舜臣が好きになった。もう故人なのだが。ちょうど少し前から中国になぜか興味が出てきたのもあって、陳舜臣さんの全七巻の中国の歴史に手をつけた。第1巻は神話時代から春秋戦国、紀元前400年ごろまでの話である。春秋戦国時代の中国は群雄割拠の混沌の世界。日本でいえば戦国時代のようなのだが、違うのはその時期。春秋戦国は今から2500年ほど前、紀元前500年の話。中国の歴史の長さには気が遠くなってしまう。悠久の歴史を持つ中国人が多少威張っても仕方ない。難しい漢字の羅列や、多くの国名と似通った王たちの名前にくじけることなく読み終えられたのは陳舜臣の語り口おかげ。軽すぎず重すぎず。深い話を分かりやすく。さまざまなエピソードを国を変えて、視点を変えて、繰り返して説いてくれるおかげで、理解の遅い人間にも歴史ドラマが脳内に広がる。楽しい。亀のように読むのは遅いのだが、焦る必要はない。ただ涸れそうな好奇心の泉をもう少し刺激していきたい。読んでもすぐ忘れちゃうのだが、忘却を恐れる必要もない。人生は忘れるために生きているようなものなのだから。忘れそびれた薄い知識もやがて少しは溜まって何か楽しいことにつながってくれるかもしれない。コロナで本を読む時間だけはたんまりある。一日一日前に進みつつ、自分を楽しませていかねば。だってもう誰かのために生きることもないのだし。前に進むことはただ死に近づくだけ。そんなことを考えたら暗くなってしまうが、生きるとはそういう覚悟も必要かと思う。最後まで日々の灯を照らし続ける努力を惜しまないように。これも一つのアンチエイジングだね。