阿川弘之「山本五十六(下)」新潮文庫(昭和48年初版)

巻末の解説によると、単行本が出てから遺族からクレームがついたとか。著者はそれで300ページも書きたして本書となったらしい。最初のどの部分が問題だったのか、読みたくなるね。下巻は真珠湾攻撃から始まって、山本五十六国葬あたりまでが描かれる。上巻が景気の良いころまでの話だったのに対し、下巻が落ち目になっていく話、痛快さから悲しみとやるせなさに変わっていく。読んでいて暗くなった。第二次世界大戦の日本のヒーローは間違いなく山本五十六だった。彼を失った日本国民の悲しみは相当のものだったろう。彼の死に暗雲立ち込める将来を予感しただろうし。一週間後にはアッツ島玉砕だったらしいし。三国同盟に最後まで反対し、英米相手の戦争をぎりぎりまで回避しようとしていた山本五十六。彼がもっとが生きていたら、その後はどうなっていたのだろうか。著者がこの小説の最初に言っていたことだが、私もそう思っあ。75年前の戦争で失ったものを、私たちはもう想像するのも難しくなってきている。それでも私たちの国が戦争を始めたこと、たくさんの人を殺したことは消えない。国の歴史を背負って生きる必要はないのかもしれない。でも、どこかに私たちの中を流れる意識のひとつに、国の歴史は存在する気がする。じゃあどうしたらいいのだろう。わからない。今のアメリカで問題になっている人種問題もルーツはそこにある。友達になるには過去にとらわれない方がいいのか。過去を踏まえて注意するべきなのか。殺された方にすれば、何も知らないというだけでイラっとするかもね。