梶井基次郎「檸檬」十字屋書店(1933年初版)

無料電子図書で近代小説を読んでいる。さだまさしの「檸檬」が昔好きだったなと思い出し、今なら米津玄師の「Lemon」なんだよなと思いながら読んだ。短いからアッという間に終わってしまった。肺病を病んでいる青年が感じる心の揺れ動きと八百屋の店先で買った檸檬の色と質感が交差する話だ。感受性が低いとピンと来ないのだが、きっと良い作品なのだろう。作者は31歳の若さで亡くなっている。私小説というのか、この頃の小説は自分のことを描いたものが多い。当時はそういうことが普通で、勉強ができる裕福な青年たちは、書くことで自己を確立し、時代の最先端を行っていたのかも。今でいえば、単身NYへのアート修行という感覚なんだろうか。青年の心の動きはいつの時代も変わらない。鋭く繊細、でも甘い。誰もが心揺らめく甘ったるい世界を生きて、気がついたら通り過ぎている。周囲の若者たちを見て「ありゃま」と驚くことが多いが、きっと今「ありゃま」と驚かせている若者たちも、いつか菅さんや二階さん、内閣広報室の山田さんみたいな年齢の大人になる。一体そこに至る間に何を得て何を失うのだろう。檸檬の甘酸っぱい香りはもうしないし。米津玄師のLemonの張りつめた切なさも全くないのはたしかだね。