芥川龍之介「羅生門」ちくま文庫『芥川龍之介全集Ⅰ』(1986年初版)

芥川龍之介の本は読みやすい。宮澤賢治梶井基次郎の次に読んでそう思った。文章に靄のようなものが全くない。冷徹な視点とでもいうのかなあ。私にはわからない。黒澤さんの有名な映画「羅生門」を見たことがあったが、本は読んだことがなかった。本は映画とは違う感動を与えてくれた。話の舞台は京都。飢饉や災厄が重なった時代に、羅生門で起こる一瞬の話。下人はもう盗人になるしか仕方がないくらいに追い詰められている。羅生門の二階に行くと、老婆が死体から髪を抜いている。老婆も追い詰められて死人から髪を抜いて売ろうとしている。死人から髪の毛を抜くなんて。でも、その老婆から着物を奪うなんて。自分は、下人か老婆か、どっちになるのだろうかと、ぼんやりお茶を飲みながら考えた。自粛生活で読書習慣が出来た。本を読んであとは誰とも話さずぼんやり過ごす。ひとりぼっちの高齢者ってこういう日常なのかと思う。以前のような生活にはもう戻れない。たとえワクチンが行き渡ったとしても。2年先か3年先かも分からない。その頃にはまた違う局面が待ち構えている。誰かの何かを奪いながら生きる世界に私たちは生きている。でもその実感はない。だからのんびり生きていける。何かを踏みにじるのも生きるため。生きることは最優先事項。我が身を差し出したカンパネルラになれればそれが一番かっこいいのだけど。それは自分の命への裏切りにも思える。命について考える、今は。それに向いている時期だ。