ノマドランドNomadland (2020米)

ヤマザキマリさんのtweetで、急に思い立って見に行く。主演のフランシス・マクドーマンドは「スリービルボード」の時も驚かされたが、今回も衝撃だった。キャンピングカーで旅をして暮らす高齢者たちの話だ。旅をして暮らすと言えば、楽しそうだが、彼らは高齢になっても働き続けている。アマゾンの配送センターの仕事や、国立公園のトイレ掃除、工事現場や、ファミリーレストラン。エンパイアと呼ばれるアメリカの中西部の工場の町で夫と暮らしていたファーン。夫を亡くしたあと、工場も閉鎖、町も消滅して、彼女はキャンピングカーで暮らし始める。家はない。ホームレスではなく、ハウスレス。ファーンのような暮らしをする人たちがアメリカにはたくさんいる。皆、荒野で出会い、ひととき一緒に過ごして、「またどこかで」と別れる。自由の国アメリカ。絶対的な自由を求めていく姿に、覚悟のない私は恐怖を感じてしまう。映画は静かに美しく、何が起こるわけでもなく、淡々と過ぎていく。キャンピングカーの暮らしは、悲惨ではない。出会う仲間との語らいも、関わりも素敵だし。そこには砂漠の果実のような瑞々しい喜びもある。でも胸が締め付けられる思いがした。年齢を重ねていくほど、喪失ばかりが増えていく。痛みは消えることはなく、悲しみも昇華しないまま、自己を侵食しつづける。アメリカの中西部の荒涼とした自然が美しい。岩だらけの大地の向こうに山が連なる。夜明け、夕暮れ、光の加減で微妙な陰影が生まれ、息を飲む美しさを見せる。自然に抱かれ、ただの1個の生命に戻れる瞬間。そのひとときの甘美な交歓だけが生きる過酷さを忘れさせてくれるとでも言うかのようにだ。どこまでも孤独を生きる主人公に畏怖を感じた。まさに、Great America。久しぶりにアメリカにひざまずいた映画だった。