新田次郎「武田勝頼(一~三)陽・水・空の巻 講談社文庫(昭和58年初版)

先日、甲府武田神社と韮崎の新府城跡に行った。武田信玄のことも、勝頼のこともよく知らなかったのに。ただ春の晴れた日に行った武田ゆかりの土地は、新緑の香りに満ちて美しかった。そんなこともあり、古い書棚で眠っていた3巻からなる長編を手に取ってみた。新田次郎といえば山岳小説というイメージだったが、この渾身の歴史小説は読みごたえたっぷりで、諏訪出身の作者の熱い思いも滲み出ていた。カリスマ信玄の息子勝頼は無能だったわけではないが、名家武田家の親類衆に最後まで翻弄されて無惨に終わってしまった。あれだけの強さを誇った武田軍がバラバラと崩壊していくさまはなんとも悲しく示唆的だ。小さなことの掛け違いから崩れていく組織を見ていると、今ある大きな組織の脆さも予想以上に深刻なのかもしれないと思う。駄目だと知りつつ、手をこまねいたまま滑り落ちていく今の私たち。もう誰にも止められないの?私たちのDNAにはそういう何かがあるのだろうか。誰かの頑張っている姿に励まされたりするんじゃなくて、目の前の現実と戦わなけば。春は終わり夏が来る前に。