石川純一「宗教世界地図」新潮文庫(平成9年)

古い文庫本の帯のコピーが「『いま』がわかる本」とある。1997年の頃の「いま」は、いまから25年前。当時の私は世界がどんな宗教地図を描いていたかも何も知らなかった。呑気な日本人の若者として海外の国々を旅していた。四半世紀前の日本は、今のようなダメダメじゃなくて、自信一杯の上げ潮の国だった。イスラム教の拡大も、急成長のアジアの国々も、ミャンマーの軍事政権も、対岸の火事だっま。やがて世界はグローバル化して、インターネットの普及でみんながゆるくつながった。世界はどこも同じ風景になって、旅行してても何だかつまらなくなった。でもあっと言う間に軋みだして、パンデミックに至ったわけだ。この本は雑誌の連載だったらしく、ひとつひとつが短い。読みやすいが物足りない。地図がわかりにくい。でも25年前の自分や、あの頃の日本を思い出させてはくれた。あの頃が良かったわけではない。今だってそう悪くもないのかもしれない。宗教は本来、平和や調和を目指すのに、紛争はいっこうになくならない。進むべき道の先には自由で平和な社会があるのかと思っていたが、気がつけばぐるり回って元の位置にいた。未来を夢見て過ごしていた若かりし頃が少し懐かしい。ただ、こんなだめな自分にも、こんなだめな日本にも、がっかりしつつも諦めてもいない。それでもいいじゃん。何があっても生きている限り道は続く。やがて命が終わっても、また別の命が始まるだけ。ゆっくり行こう。