石川淳「新釈雨月物語・新釈春雨物語」ちくま文庫(1991年)

上田秋成雨月物語春雨物語の現代語訳版。やっと読み終えた。つらかった。自分には難しすぎた。解説が三島由紀夫で昭和29年4月とあるから、新釈の現代語訳自体も半世紀前の話なのだから仕方ないか。前半の雨月物語は面白かった。怪奇的な話が好きなせいもある。春雨物語の方が書きようは簡単なのだが、どうにも入ってこなかった。江戸時代後半に出来た物語だが、文学史的には小説の走りのようなものとなるらしい。上田秋成の生涯も何も知らないが、どうやら不幸な身の上だったらしい。不幸な人間だから見えない世界にひかれるのかもなあと根拠もなく思った。現実に立ち向かう力のあるなしにかかわらず、またその人がどんなに強いか弱いかにも関係なく、心が折れてしまったときに見える景色はちがう。優しい言葉は耳を素通りし、讒言ばかりがこだまする。見えないものを見つめ、聞こえない声に耳を澄まるのは、心の防御反応なのかもしれない。辛い時期もやがて過ぎる、それまで非現実にゆだねながらやり過ごすのが大切。嵐が過ぎるまでの心のテーピング。長期になるひともいるけど。「それでもいいのだ、いいのだ」と、私たちはもっと自分に言ってあげてもいい。