阿刀田高「ギリシア神話を知っていまか」新潮文庫(昭和59年初版)

昔読んだはずだが、何一つ覚えていなかった。面白かったという記憶がある。今回読んでもやはり面白かったし、内容ももう思い出せない。何ということだろう。作者の名前はてっきりペンネームかと思っていたが、本名らしい。珍名字の阿刀田さんのギリシャ神話は、有名どころの登場人物の話を分かりやすく面白く語ってくれる。イラストは和田誠さん。飄々とした絵と文章がぴったりあっていて洒落ている。軽みがあって、今読んでも古びていなし、センスの良さが光る。素人に優しい文体は、ギリシャ神話への深い理解と広範な知識があってのこと。本物の知的な人はやはりカッコいいなあと思った。遅ればせながら、本を読んで、自分もすかすかの頭脳を活性化している。今では非常に定着が悪くて、入れたはなから消えていくのだが、そんなことは気にしていられない。これだけ家にいることを奨励されている今だからこそ、ゆっくり本の世界をさまよい、楽しみたい。今度知らないどこかの街を歩く、ふとした瞬間に今読んでいる本のことがちらりと思い出せれば大成功。今はその伏線をはろうかと、無闇矢鱈に読書する。心は遠くエーゲ海。いつか行けることを祈って。