星新一「人民は弱し官吏は強し」角川文庫(昭和46年初版)

読み終えて、星新一のお父さんの話だったことを知る。びっくりしたが、納得した。ショートショートを読むつもりもだったので、最初困惑したのだが、すぐに引き込まれて一気に読んだ。大正時代に苦学してアメリカの大学を出て、日本で製薬会社を作った男、星一の話。題名が示すように、最後は官吏のいじめで潰されていく人民の話でもある。魅力的な主人公星一を執拗にいじめ抜く政府の存在が、今の政府と重なり、怒りや憎悪がこみ上げてきた。昔から権力者は悪い奴が多いのだ。星一はその後どうなったのだろう。息子が立派な作家になったのだから、悪いことばかりではなかったのだろう。今の政府を見ていると、一体なぜ私たちはこんな無能な人たちに大きな権力を持たせてしまったの持だろうと思う。残念ながら、権力を持ったことがないので、権力者の心持ちが分からない。権力の魅力にも未だ気づいてもいない。そんな無関心たからいけなかったのかとも思う。平穏無事に回っているかのように見えた社会だが、綻びは以前からあったのだろう。コロナの感染やら度重なる天災で世界はどんどん崩れ落ちていく。強くて要領のよい者だけが生き残るのだろうか。幸せそうに見える人たちが高笑いしているような、そんな妄想がおきてきても不思議はない。そんな政治不信の夜に読むと、この本はとても面白い。