「ゆる言語学ラジオ」の堀元君が好きな作家だというので読んでみた。久しぶりに新しい本を読んだ興奮もあるが、大変面白かった。当たり前だが、古い本にはない「今」があった。短篇小説集で、どれもシニカルな視点とさらっとした読み心地がある。それなのに何か根源的なことを考えさせるから引き込まれてしまう。「楽しい超監視社会」にある私たちの日常は、監視人であるフォロワー数が多いほどいい。プライバシーってそもそもなんだっけ?そんな気にさせられる。タイトルでもある「人間たちの話」は、もっと続きが読みたかった。ひとつの細胞から生まれた私たちとは違う、宇宙のどこかに存在する生命体に、私たちは会いたいのだろうか。「記念日」や「No Reaction」にも流れている共通した「個の世界」が不思議な感覚で描かれている。孤独に生きることが感傷的ではなくニュートラルに存在していること。死がプログラムされていて、私たちは死ぬことを約束されていること。悲しくも寂しくもなくて、まるで宇宙空間に浮遊しているような感覚で語られる。ちょっと新鮮な気持ちになれた。作者は理系の研究職であっらしく、大学院生の暮らしや研究室の世界も垣間見れる。縁がなかった世界なので、それも興味深かった。若い頃はSFが苦手だと遠ざけていたが、苦手は損な気がしてきた。今は何でも知りたいし、味わいたくて仕方がない。美味しい匂いのする方向へ、楽しそうな音のすぐ方向へ、どんどん流されていきたい。そのスタートがこの本だったのは、大正解だったね。