NHK-BSP「中森明菜スペシャルライブ2009横浜」

13年前の明菜ちゃんのカバーライブ。折れそうな細い肩を出した黒のノースリーブと紫のロングスカート。ストゥールに座りながら、フォーク、ニューミュージックの名曲を次々と歌う。選曲が渋すぎてびびる。1ミリも光がない。歌い方も息のこもったあの歌い方で、ほぼうつむいてひたすら熱唱。どこまでも染み入るような暗さに、どんどん引きずり込まれてしまう。生まれて初めて彼女の魅力に気づいたのかもしれない。絞り出すような歌い方は命を削っているような気さえする。少し前に放送していた1989年の野外ライブの明菜ちゃんとは全然違う。あのときに見せた弾ける笑顔と挑むような鋭いまなざしはここにはない。ただただ、さびしくて壊れそうな難破船の明菜がいた。ミッツマングローブが明菜ひいきなのも分かったような気がした。ここはひなたの道を歩いているつもりで、いつの間にか踏みつけられた道端のタンポポの場所。綿毛を飛ばすこともなく息絶えたところなのかもしれない。たまに入る明菜の曲紹介は柔らかくて、ほんのり微笑んで、その壮絶さを語らない。ただ歌声には水底を這う人間の気持ちを揺さぶる何かがあるような気がした。彼女は何をしてんだろう。今も歌っているなかなあ。今こそあなたが必要なのかもしれないね。