兼重直文先生の古稀を祝う記念演奏会  三重文化会館

友人と一緒に久しぶりに兼重先生のピアノを聴きにいく。ベートーヴェンピアノソナタがこんなに染み入ったのは、一緒にここに来るはずだった友達の事や、久しぶりに会った別の友達の病床での姿やら、いろいろ去来したせいかもしれない。兼重先生は髪の毛が白くなったけど、相変わらずチャーミングで素敵だった。軽やかで深遠なピアノは私の思索の翼を存分に広げてくれた。初めてお会いしたときに、「もっと色っぽく弾けよ」ってバイエルを弾いてくれた先生。あれから長い年月が経ってしまった。山口県出身の兼重先生が東京芸大を卒業して、何のゆかりもない土地に来て、ひとつずつ音楽の種を植えていって下さった。小さな種は、やがて伸びて木となり、花となり、いまでは大きな森となった。教え子たちとの弦楽合奏でのモーツアルトのピアノ協奏曲、130人が集まっての合唱は、まるで満開の桜の森が眼前に広がるようであった。そんな兼重先生の一部分にでも関われたことに感謝した。このピアノは空の上にもきっと届いていただろうし、ベッドの上の友にもまた会いに行こうと思った。