ヴィムベンダースが敬愛する小津安二郎監督の映画、同じ日本人が見ていないのもどうかと思い見る。NHKでデジタルリマスター版が放送されたので録画した。お話は広島尾道在住の老夫婦が息子や娘がいる東京へ遊びに来て数日を過ごすという話。小津さんのお気に入りの笠智衆と原節子が出演。若き日の山村聰や杉村春子も出ている。どの絵も確かに小津安二郎である。ワンカット見ただけで監督が分かるのは彼ぐらいだと言われるのもよく分かる。独特な構図の絵と台詞まわしは静物画を見ているようだ。描かれる世界も感情が抑えられていて、笠智衆の語りのように淡々と最後までいく。彫りの深い顔立ちの原節子が、唯一この映画の中で異彩を放つ。華やかな顔立ちは清楚で地味な役柄には違和感があるが、そこが監督の好みなのかもしれない。遠方から来た老夫婦は息子や娘に会えて嬉しい半面、忙しそうな子どもたちと距離を感じる。自分の家族が出来るとそれが1番大切なのよ、と未亡人になった義理の娘の原節子がいう。配偶者もなく、子どももいないと家族は親だけだ。親が亡くなると無重量になって、ふわふわっとした。よりどころもなくなって、うっかり消えてしまいそうになる。よりしろは大切である。自分が老いてきて朽ちていくものにも目がいくようになった。若さも華やぎも、どんどん手放して行きましょう。あれもこれも消えてしまえば、きっと別な世界が見えてくる。