「トップガン マーベリック」(2022米)

私の年代の人なら見に行く映画。たまたまドルビーシネマだったけど、この映画ならその価値があるかも。お話は還暦の戦闘機乗りであるトムクルーズが年齢を感じさせない活躍でトップガンの若者たちと一緒にまだまだ頑張るって話である。還暦ファンタジー。ジェニファーコネリーが黒島結菜に見えたり、トムクルーズがムキムキ頑張って、今も凄いパイロットを演じていたり、ちょっと文句も言いたくなるのだけど、それでもよくできているので許してしまう映画である。トップガンの若きパイロットたちなどのキャスティングも今風で多彩。女性パイロットが最後に選抜されるあたり、考慮しすぎなのかもと思ってしまったが、私が偏見を持っているだけなのかもしれない。戦闘機のことなど何も知らないが、臨場感があって堪能できた。この手のものが好きな人にはきっとたまらないだろう。とはいえ、見終わって、何だかちょっと寂しい気持ちにもなった。というのも、昨今の世界情勢。敵の基地を爆破させるとか言われても、何が正義で誰が敵なのかと考えてしまう。正義の破壊という名のもとに、実際、今も戦闘は続いているわけだし。映画として楽しめばいいのだろうが、そんなに器用にわりきれない。還暦のトムクルーズ、本物の還暦はあんなにかっこよくないけど、色々考えてはいるのである。

村田沙耶香「しろいろの街の、その骨の体温の」朝日文庫(2015年初版)

同級生とご飯を食べていて話題にのぼった本。中学時代からの女友だちアルアル話から是非にとすすめられた。スクールカーストという言葉がない時代を生きてきたが、ヒエラルキーがなかったわけではなかった。この本は小学生から中学生に向かう少女たちのドロドロとした心の話である。新興住宅地で暮らす主人公「谷沢結佳」は少年「伊吹」をおもちゃにしている。結佳のカーストは下からふたつめだが、伊吹は1番上のカースト。マッチしない関係がこの話の核になる。白いニュータウンと、2人が通う書道教室の墨。一緒に帰る夜の緑道。白と黒の対比が、主人公の心情や行動と重なる。小学生の時の仲良し、信子ちゃんと若葉ちゃんは、中学になって同じクラスになったが、所属するカーストはそれぞれ違うし、もう親友ではない。結佳はそつなく周りを読んで複雑な力学がはたらく教室を生きている。一方、少女の身体は第二次性徴を迎え、わちゃわちゃしている。そのすさまじさに、懐かしを越えて気持ち悪さが先だった。それでも一気読みしてしまうのだから、なんだろうね。ねっとりとした少女の内面がこれでもかと書き綴られている。後半の転換にもびっくり。でも不思議に読後感は悪くない。それにしても、我が身を振り返ってみたが、痛みやら、自意識やら、あまり思い出せないのは、私がひょっとするとクラスの上位にいたせいなのかもしれない。伊吹と同じ「幸せさん」だったのかと思うと恥ずかしい。あの頃、上位にいたらしい私は、その後は下ってばかりだ。人生が15歳で終わればよかったのか。はたまた下り転がったからこそ、今があるのか。もう二度とあの頃には戻りたくないが、今、中学生の自分に出会えたら、この本を勧めるかもしれない。あの頃の自分が読みこなせるとは思えないが、万が一にも心にかかれば、今の私には辿りつかずに済む気がする。それがいいのかどうかはわからないが、それくらい「刺さる」ものはある。痛みや傷はできれば避けたいが、避けきれないときもある。ツルッとした人生にもそれなりの古傷はある。長く生きるとは無傷ではいられないということか。それでも、やかてすべては終わる。私たちはいつも終わりに向かって歩いている。

柞刈湯葉「人間たちの話」ハヤカワ文庫(2022)

「ゆる言語学ラジオ」の堀元君が好きな作家だというので読んでみた。久しぶりに新しい本を読んだ興奮もあるが、大変面白かった。当たり前だが、古い本にはない「今」があった。短篇小説集で、どれもシニカルな視点とさらっとした読み心地がある。それなのに何か根源的なことを考えさせるから引き込まれてしまう。「楽しい超監視社会」にある私たちの日常は、監視人であるフォロワー数が多いほどいい。プライバシーってそもそもなんだっけ?そんな気にさせられる。タイトルでもある「人間たちの話」は、もっと続きが読みたかった。ひとつの細胞から生まれた私たちとは違う、宇宙のどこかに存在する生命体に、私たちは会いたいのだろうか。「記念日」や「No Reaction」にも流れている共通した「個の世界」が不思議な感覚で描かれている。孤独に生きることが感傷的ではなくニュートラルに存在していること。死がプログラムされていて、私たちは死ぬことを約束されていること。悲しくも寂しくもなくて、まるで宇宙空間に浮遊しているような感覚で語られる。ちょっと新鮮な気持ちになれた。作者は理系の研究職であっらしく、大学院生の暮らしや研究室の世界も垣間見れる。縁がなかった世界なので、それも興味深かった。若い頃はSFが苦手だと遠ざけていたが、苦手は損な気がしてきた。今は何でも知りたいし、味わいたくて仕方がない。美味しい匂いのする方向へ、楽しそうな音のすぐ方向へ、どんどん流されていきたい。そのスタートがこの本だったのは、大正解だったね。

 

 

TBS「持続可能な恋ですか」

春ドラが特にどうというわけではない。ドラマについて書き続けているのは、私自身のアウトプット修行の一環なのだ。なるべく文章にまとめて頭の整理整頓、活性化につとめている。さて、このドラマは上野樹里主演のラブストーリー。だが、恋愛モノとしてはパンチがない。今どきのありがちな設定を随所に盛り込み、30代の女性の恋愛を描いているが、地味である。上野樹里の父親が松重豊さん。上野樹里のお相手が田中圭上野樹里は以前から上手だったが、「監察医朝顔」以来、安定感も出てきた。実に自然で滑らかで見ていて心地よい。今回はヨガの先生役。細いが健康的な感じでいかにもヨガ講師っぽい。幼なじみの同居人の磯村勇斗君より子持ちの田中圭へと心は傾き、父の松重豊は整形外科医の井川遥と距離を縮めていく。ドラマチックな展開は少ないが、日常が丁寧に描かれていく。盛り上がりに欠けているところが逆に今のリアルなのかもしれない。私達の生きている日常は淡々としている。劇的な展開はほぼない。持続可能な社会を目指すとは、実はこういうことなのかもしれない。バリバリ限界まで働いて思いっきりビールを飲んで、恋にも仕事にも一生懸命!という時代はもう終わったね。持続可能な恋も社会も日々の小さな積み重ねが大切。微々たる喜びをかみしめられるか。能力というより才能、もはや宗教かもしれない。信じるものが救われるといいのだが。

日本TV「悪女(わる)」

昔のドラマのリメイクだと最初は気がつかなかった。田中マリリンという主人公の名前と石田ひかりの登場回で記憶か一気に呼び戻された。前作はバブル景気の日本。今作は令和の閉塞感半端ない日本の一流企業が舞台。ちょっと変わった新入社員マリリンが騒動をおこしながら出世していくサクセスストーリー。前作も面白かった記憶がある。今作の田中マリリンは今田美桜。彼女を支える峰岸さんが江口のりこ。令和の旬である。今田美桜ちゃんは予想を反してこの役にハマっている。かわいいのに、かわいい子が変な役をしている風にならないのがいい。江口のりこはいわずもがな。前作が男女雇用機会均等法の頃だったが、今作はそもそも男女とか言わない時代に突入している。時代の変化を上手く取り入れ、今のお仕事ドラマとしてなかなか楽しく見られる。時代は移りゆき、バブル世代もそれなりに対応してゆかねばなりません。当時の恩恵が少なかったのが幸いし、自分の若い頃が良かったとは思わず済んでいる。キャリアは築けなかったが、仕事はいつもそばにあった。自分らしさを特に表現することもなく、生きづらさもほどほどで、大きく病むこともなく現在に至る。これを恵まれていると感謝して過ごせば、災厄は訪れないとどこか信じている。今日も1日が過ぎていく。やがて賃金労働ともさよならするその日まで私はこのまま行くのだろう。

テレビ朝日「未来への10カウント」

木村拓哉主演のドラマ。キムタクが出ているから、ジャニーズの若者も出ている。落ちぶれた元高校チャンピオンが母校のボクシング部を再建させる話のようだ。顧問の先生が満島ひかり。最近露出が激減していたが、久しぶりに見る満島ひかりは相変わらず魅力的。校長先生は内田有紀。美しい校長先生はキムタクの後輩でボクシング部のマネージャーだったという設定。キムタクはいつもの不機嫌そうな演技だ。地なのか演技なのかよく分からないが、キムタクのこれはお家芸っぼくていい。ボクシングもキムタクに似合う。野球やサッカーでは駄目だし、ラグビーはありえない。大したドラマはないが、なんとなく見るにはいい。おすすめとまではいかないが、キムタクの現在を見て、過ぎ去りし日々を漫然と思い出すのもいい。落ちぶれた役柄もなんだかそれなりのリアリティを持つようになったキムタク。あらゆるものが流れて転がって色褪せ渋みを出すのだなあと思った。いつまでも若いとか美しいとか執着を捨てたところに、別の輝きがあるのではないか。やっちゃえキムタク。今の彼にそんなことを感じた。

フジTV「ナンバMG5 」

間宮祥太朗君が好きなので見始めた。ヤンキー一家難波家の次男が家族に内緒で普通の高校生の青春を送りたいと、ヤンキーと真面目な高校生の二重生活を送るコメディ。ヤンキー家族のパパが宇梶剛士、ママが鈴木紗理奈。兄は満島真之介。犬のマツはソフトバンクのお父さん。途中挿入される劇画がおしゃれ。主役の間宮君と親友になる五代が神尾楓珠。美はヤンキーにあり。美形男子の野生的な顔は見るのは楽しい。さて、そもそも日本人の心にはヤンキーへの親和性があるのかもしれない。強さへの憧れか、純粋な仁義とでもいうのか。ファッションはともかく、体をはって、自分ではない誰かのために行動する姿はいい。主人公のヤンキー家族の「ダチの家に来て遠慮するな。」という台詞など、迷惑をかけないことが一番大事と育ってきた者には熱い台詞に聞こえてしまう。同級生藤田さんに森川葵ちゃん。コケティッシュでただのかわい子ちゃんじゃないのがいい。細部に神は宿る。脇役の、美術部先輩に加藤諒君、藤田さんの同級生に富田望生ちゃん。きめ細かいキャスティングに愛を感じる。ヤンキー心をくすぐる番組である。