馳星周「少年と犬」文藝春秋(2020)

「犬」繋がりで読む。馳星周は「不夜城」などハード系小説を何冊か読んだ。そんな彼が直木賞をとった作品がこれ。短編が連なりひとつの話になっている。昔やんちゃしていたクラスメートがすっかり好々爺になっているような作品だった。出て来る人物が訳ありで、そこにシェパードと和犬の雑種犬が現れて、暗くて寂しい心の闇を照らすお話。普段は自分が居る場所周辺の事しかしか考えてないが、この社会にはいろんな人が様々な暮らしをしている。私たちはいつ落ちてもおかしくない日常にいる。でもその危うさには気がつかないでいて他人事だ。雑種犬の多聞はその危うさが分かっているみたいだ。名前の通り、よく話を聞いている。多聞天毘沙門天の別名たが、誰にも語れない心を包み込む救世主の話でもある。最後は少し出来過ぎの感じもしたが、この本全体を貫く悲しみを照らす光明があってよかった。残酷なこともたくさん起こる時である。救いのないことも多いが、光明を信じて進むしかない。イヌを飼いたい。でも、私には飼う自信がない。飼えるようになるだろうか。