ヘミングウェイ・高村勝治「キリマンジャロの雪」他十二編 旺文社文庫(昭和41年初版)

ヘミングウェイは以前にも読んでいる。今回は古い旺文社文庫で「キリマンジャロの雪」を読んだ。当時130円の旺文社文庫には巻末に年表があり、解説もしっかりあり、まさに至れり尽くせり。「誰がために鐘は鳴る」がヘミングウェイ原作であることも今回初めて知った。こんなに生きてきたのに何も知らないのである。第二次世界大戦のヨーロッパを嫌いアフリカに出かけたというヘミングウェイ。「キリマンジャロの雪」はその時のアフリカ狩猟旅行(サファリ)の経験からの作品らしい。ちょうど同じ頃、日本では、谷崎潤一郎細雪を書いていたらしい。文豪たちは世間の動きに筆で文句を言う。安易に世界の波に乗ってはいけないねえ。特にきな臭くなってきたら、責任の所在が見えない組織は危ない危ない。誰が言ったかわからない命令で、人殺しなどしたくない。この本では、「フランシス-マコーマーの短い幸福な生涯」という短編が面白かった。これも東アフリカのサバンナを背景にしたお話で、不思議な後味が残った。サバンナ、またあの風景に立てるだろうか。生と死が近くに迫りながら、調和が保たれる世界。死はあっけなく訪れる。だからこそ粘り強く生きるか。逆もまた真なり。