読書

伊吹有喜「犬がいた季節」双葉社(2020年)

学生時代の友人に教えてもらった本。時代設定が平成の初め頃、自分のことも思い出しながら懐かしく読んだ。ある高校に迷い込んだ犬を学校で飼うことになり、その犬を交えた話が時代の変遷と共に描かれている。ほどよい緩さと切なさで語られていて心地よい。…

坂元志歩著・大阪大学蛋白質研究所監修「いのちのはじまり いのちのおわり」化学同人(2010年)

友人の著書。発売当時に購入したのだが、難しすぎて放置してあった。ここ最近の読者習慣のおかげで今なら読めるのではないかと思い頑張った。あらためてこんな難しい本を書いた友人を尊敬した。多少なりとも内容が理解出来たことも嬉しかった。自分が生まれ…

井筒俊彦「イスラーム生誕」中公文庫(1990年初版)

井筒俊彦さんと言えば、三十を越える語学を操る知の巨人。恐る恐る本を手に取ったが、予想以上に分かりやすくて感動した。本書は2部構成で、第1部が「ムハンマド伝」、第2部が「イスラームとは何か」だった。第1部は昭和27年初版、青年の著者が書いたもの。…

リチャード・リーキー 岩本光雄訳「入門 人類の起源」新潮文庫(昭和62年)

今更、人類進化の話を読んだ。東アフリカではお馴染みのリチャードリーキーも、私は名前しか知らなかったからだ。写真がたくさん入っている文庫で、訳がいいのか、面白くてページがぐいぐい進んだ。楽しみながら、人類進化の勉強が出来て得した気分になった…

浅川智恵子(聞き手)坂元志歩「見えないから、気づく」ハヤカワ新書(2023)

著者浅川智恵子さんは中学の時の事故で視力を失った。その人がやがてIBMのフェローとなる話だが、個人的な苦労話はあまり語られていなかった。テクノロジーが世界を変えること、あらゆる人に開かれたアクセシビリティが大切なのだと。スマホが使えるようにな…

パトリシア・ハイスミス 小倉多加志訳「11の物語」ハヤカワ文庫(1990)

発売当初の頃に読んだ本の再読。この本で思い出せるのは、何とも言えない読後感があったこと。再読して、あーこれこれ、この微妙な読み心地と、再度懐かしく味わった。アラン・ドロン主演の「太陽がいっぱい」という映画の原作が、パトリシア・ハイスミスだ…

太田昭彦「山の神さま・仏さま 面白くてためになる山の神仏の話」ヤマケイ新書(2016)

山と溪谷社がこんな新書を出しているんだとまず驚いた。著者は山登りのガイドさん。この方と一緒に山に行きたいなあと思った。山にまつわる神様のお話はそれぞれ面白いのだが、読み終えるのは難儀した。きっと山登りの時に聞いていたなら、さぞかし心に響い…

すみだ北斎美術館 編・著「THE北斎 富嶽三十六景 アートボックス」講談社(2020)

岩波文庫の『富嶽三十六景』のあとに読んだせいだと思う。少しがっかりした。読者への心くばりが足らないと感じた。ページ表記はなぜあの位置なのだろうか。中央にあって見づらい。でも1番の問題は英訳。日本語の説明の逐語訳になっていて、無闇に長くて、…

日野原健司編「北斎 富嶽三十六景」岩波文庫(2019)

非常に読みやすい良書。文庫サイズなので、図版は両開き、そのあとに解説。適量でわかりやすい。北斎の富嶽三十六景を全部眺めてみると、北斎の好みや当時の江戸の風俗が塊となって感じられた。富士山の三角形を、桶の円形からのぞいたり、マルや三角と富士…

岡田節人・南伸坊「生物学個人授業」新潮文庫(平成12年)

岡田節人先生のことは全然知らなかった。生物系の軽めのお話なら簡単に読めそうだと新幹線のお供に持ってきたのだが、浅はかさだった。もう20年前の本だしと、たかをくくっていた自分が恥ずかしい。「知る」とは「知らない」ことを知ることだ。岡田節人先生…

柳田国男「日本の昔話」改訂版 角川文庫(昭和51年)

ゆる民俗学ラジオの黒川君の話をきいて、柳田国男を読むことにした。日焼けした古い文庫本。読み終えたら古紙回収に行く本である。最後の読者になれて光栄だ。この本の精霊も喜んでくれるかも。そんな他愛のない妄想から、昔話は生まれたのかもしれない。そ…

黒田未来雄「獲る 食べる 生きる」小学館(2023)

知っている人が本を出すなんてことはあまりないので、嬉しくて予約して買った。彼の華麗なる転身にも驚いたし。この本にも感動した。私の知らない彼がいたし、それがなんだかカッコよかった。内容は彼がハンターになるに至る話。語りは、簡潔で、優しくスト…

保阪正康「敗戦前後の日本人」朝日文庫(1989)

テレビで保阪さんの「最後の講義」を見た。渋い顔で淡々と語る姿と、内容の濃密さに感動したので本を読んでみた。終戦前後の話だ。泥沼の戦いへと導いた人たちへの憤りがこれでもかと綴られていた。読んでいるうちに、怒りが、現政府への不満と重なって私も…

今谷明「近江から日本史を読み直す」講談社現代新書(2007年)

先日滋賀県に遊びに行ったので、読んでみた。思ったより難解だったが、実際に目にした風景を思い出しながら読み進めるのは楽しい。近江は、遠江と対になる言葉だったのか、言われてみればだが、考えもしなかった。この本は近江の国を舞台にした古代から現代…

大江健三郎「万延元年のフットボール」(昭和46年初版)

大江健三郎さんが亡くなった。ノーベル文学賞をとった作家だから、一冊くらい読んでみようと手に取った。久しぶりに5ページ読んで死ぬかと思った。日課で続けている読書のせいで多少難解でも読めるようになった。しかし異次元の難解さ。それでも我慢して読…

松本清張「ゼロの焦点」新潮文豪(唱和46年初版)

引き込まれたくて松本清張。「ゼロの焦点」も初めて読んだ。期待通り面白くて大満足。昭和の香りで育った身としては松本清張はホームのようなもの。懐かしき時代の風景を思い出しながら読み進め、じんわり郷愁に浸る。昭和の半ば、貧しさから脱却して上を目…

千野帽子編「富士山」角川文庫(平成25年)

「近日処分するのでご自由に」という段ボールの中から拾ってきた本である。「富士山」についていろんな作家が書いた文章を一冊の短編集にしている。太宰治、夏目漱石、永井荷風、赤瀬川原平、丸谷才一など、それぞれの作家の個性が出ていて面白かった。特に…

中国歴史の旅(上・下)陳舜臣 集英社文庫(1997年)

中国語を勉強しているし、好きな陳舜臣さんの本なので読んでみた。1997年の文庫なので、中国の姿は今とはかなり違うが仕方ない。読み始めてすぐ、陳舜臣さんの語り口が心地よくて嬉しくなった。上巻は北京から西域へ、下巻は上海から桂林へ。各地の名所をそ…

松本清張「砂の器」新潮文庫(昭和48年初版)

何度もドラマ化された有名な作品だが、読んでいなかった。昭和の名作を読まずに死んではいけない。最近は、晩年に差しかかってきたのでなるべく先送りはやめている。さてお話は、殺人事件とその犯人を捜す刑事さんのお話。被害者の身元は不明。唯一の証拠は…

高野秀行「語学の天才まで一億光年」集英社インターナショナル(2022)

前々から気になっていたので、お正月のお年玉として購入。思っていた以上に共感できてあっと言う間に読んでしまった。自分も語学習得が好きなので、作者が落ち込んだ時に新しい語学を始めてしまうくだりには強く共感した。そうなのだ。語学学習には何かから…

ヘミングウェイ・高村勝治「キリマンジャロの雪」他十二編 旺文社文庫(昭和41年初版)

ヘミングウェイは以前にも読んでいる。今回は古い旺文社文庫で「キリマンジャロの雪」を読んだ。当時130円の旺文社文庫には巻末に年表があり、解説もしっかりあり、まさに至れり尽くせり。「誰がために鐘は鳴る」がヘミングウェイ原作であることも今回初めて…

平野雅章「食物ことわざ事典」文春文庫(1978年)

古い本だが、勉強になった。食べ物に関する諺をあげて、見開き2ページに文章が並ぶ。食べもの関係だからと、ソフトな読み口を期待していたが、物言いはクールで気難しい先生の話を聞いているかのようだった。甘ちゃんな私の日常には、背筋が伸びるような厳し…

佐藤優 聞き手・斎藤勉「国家の自縛」産経新聞社(2005年)

佐藤優さんの最初の本が面白かったので、これも読んでみた。産経新聞社から出ているので、前回のとは少し味わいが違う。プーチンが最初に大統領なった頃の本なので、今の情勢と合わせてみると興味深い。佐藤優さんは、外交官は国のために命をかけて働くのが…

塚本和也(写真・文)「遥かなりC56  ポニーの詩情と宿命の行路」JTBキャンブックス(平成13年)

頂きモノの本。SLの写真集かと思いきや、高原列車C56の誕生から廃車に至る詳細な記録だった。昭和10年にできたC56は小さい体だが馬力があるので、標高が高い小海線を走った。高原列車のポニーという愛称でも知られ、多くの人に愛された機関車だった。やがて…

フリーマントル 新庄哲夫訳「KGB」新潮選書(昭和58年)

古い書棚から持ってきたロシア系の本。プーチン大統領でお馴染みのKGBのお話である。私のKGB知識はスパイ映画くらいなもので、何も知らない。この本は、スパイ小説で人気の作家が書いた本当のお話らしく、身の毛もよだつ話が満載だった。今から40年前の本で…

中村紘子「チャイコフスキーコンクール ピアニストが聴く現代」新潮社(1988年)

本が出た頃に読んだ記憶がある。30年の月日を経て再読。今読んでも面白い。年月を越えても変わらぬ面白さ、素晴らしさ、当時の私は知る由もなかった。我が家の古い書棚にある数少ないロシア系の本として手に取ったのだが、ロシアという国を知るという点でも…

橋本治「青春つーのはなに?」集英社文庫(1991年)

今回の橋本治は前半が難解だった。途中から理解することを諦めたら、やはり橋本治はいいなあと思った。巻末の解説の中野翠さんを読んだ。なんだ、わかんないのは、私だけじゃないんだと知り、橋本治がまた好きになった。彼の本は、どこに連れて行かれるのか…

佐藤勝「国家の罠 外務省のラスプーチンと呼ばれて」新潮社(2005年)

これもロシア関連本として読む。四半世紀前に、北方領土返還にむけて奔走していた鈴木宗男さんと佐藤勝さんがよくわからない容疑で捕まった話。そして当時、外務省でロシアの情報分析をしていた佐藤勝氏が、鈴木宗男氏をターゲットにする国策捜査について語…

ドストエフスキー「カラマーゾフの兄弟1~5」亀山郁夫訳 光文社古典新訳文庫(2006)

人生で初めてのドストエフスキー。ようやく全5巻を読み終えた。マラソンでも走ったかのような達成感。読んでいる間は、濃密で緻密な話に、ドストエフスキーを生んだロシアの大地に思いを馳せた。ウクライナとの戦争が始まって、ロシアのことを知りたくて読ん…

村田沙耶香「しろいろの街の、その骨の体温の」朝日文庫(2015年初版)

同級生とご飯を食べていて話題にのぼった本。中学時代からの女友だちアルアル話から是非にとすすめられた。スクールカーストという言葉がない時代を生きてきたが、ヒエラルキーがなかったわけではなかった。この本は小学生から中学生に向かう少女たちのドロ…