読書

阿刀田高「殺し文句の研究」新潮文庫(平成17年)

阿刀田高さんのエッセイ集。比較的若い頃の作品が詰まっている。作品目録が巻末についている。売れっ子作家の阿刀田高さんは国会図書館勤務経験者。サラリーマン生活を経験しているせいか、読み手のすぐ近くにいる普通の人だという印象がある。重くならず、…

ヘミングウェイ短編集(一)大久保康夫訳 新潮文庫(昭和45年初版)

ヘミングウェイは大学の英語の授業で読んだことがある。当時、田舎の大学へ神戸から通っていた美人の先生は、ヘミングウェイなら、私たちでも読めると踏んだのだろう。「インディアン部落」はそのとき読んだ記憶がある。「キリマンジャロの雪」は、アフリカ…

星新一「宇宙のあいさつ」ハヤカワ文庫(昭和48年初版)

この本もショートショート。これが一番気に入った。やっと星新一に慣れたのかもしれない。慣れる前に諦めなくて良かった。多少の我慢が悦楽への道。大きく飛ぶ前は低くしずむだ。世の中の事象は見方を変えれば、悲劇は喜劇で、その逆もあり。とかく自分の不…

星新一「宇宙の声」角川文庫(昭和51年初版)

星新一を連続して読んでいる。この本は昭和44年に単行本で発表されたものの文庫版である。少年少女が日常からいきなり宇宙へと飛び出し冒険する話。今から50年前の作品だが、古びた印象はなく、唐突だが自然に宇宙話へと展開するあたり見事だと思う。今でも…

星新一「人民は弱し官吏は強し」角川文庫(昭和46年初版)

読み終えて、星新一のお父さんの話だったことを知る。びっくりしたが、納得した。ショートショートを読むつもりもだったので、最初困惑したのだが、すぐに引き込まれて一気に読んだ。大正時代に苦学してアメリカの大学を出て、日本で製薬会社を作った男、星…

阿刀田高「ギリシア神話を知っていまか」新潮文庫(昭和59年初版)

昔読んだはずだが、何一つ覚えていなかった。面白かったという記憶がある。今回読んでもやはり面白かったし、内容ももう思い出せない。何ということだろう。作者の名前はてっきりペンネームかと思っていたが、本名らしい。珍名字の阿刀田さんのギリシャ神話…

シェークスピア・中野良夫訳「ロミオとジュリエット」新潮文庫(昭和26年初版)

古い文庫本。値段は200円。はじめて買ってもらった文庫本かも。ただ読んでなかった。当時は難しくて読めなかった。有名な戯作だから、舞台や映画では何度も見ている。戯作を読むのはまた違った味わいがあった。訳者が最後に、マキューシオと乳母の人物像の描…

水上勉「良寛」中央公論社(昭和59年)

良寛というと、子どもと遊んでいるお坊さんのイメージがあった。禅宗曹洞宗の僧侶だった。良寛さんの字は人気がある。細い線だが、芯のしっかりした字。空白がゆったりとして優しげな印象がある。そのせいで良寛さんは心の優しいお坊さんだと漠然と思ってい…

古畑種基「法医学ノート」中公文庫(昭和50年初版)

法医といえば、ドラマ「アンナチュラル」や「監察医朝顔」が思い出される。この本が出た昭和50年には著者は既にお亡くなりになっている。あとがきを見ると単行本として出版されたのは昭和34年となっているから、今から60年も前の話である。当時、科学的捜査…

新田次郎「武田勝頼(一~三)陽・水・空の巻 講談社文庫(昭和58年初版)

先日、甲府の武田神社と韮崎の新府城跡に行った。武田信玄のことも、勝頼のこともよく知らなかったのに。ただ春の晴れた日に行った武田ゆかりの土地は、新緑の香りに満ちて美しかった。そんなこともあり、古い書棚で眠っていた3巻からなる長編を手に取ってみ…

藤沢周平「密謀(上)(下)」新潮文庫(昭和60年)

藤沢周平の歴史物は初めてだった。江戸モノにはない緊張感があって、少し戸惑った。時代は秀吉から家康への頃、上杉景勝と直江兼続の話だ。波乱万丈の時代、景勝と兼続はただの主従関係以上の仲で、このふたりのやり取りがこの話の魅力のひとつだった。自分…

小川洋子「博士の愛した数式」新潮文庫(平成17年)

先日NHK-BSで同名の映画を見たので読んだ。映画は主人公が深津絵里で、博士が寺尾聰。小説の雰囲気がそのまま映画になっていたし、配役もよかった。映画では大人になったルート吉岡秀隆が教壇で数学にまつわる話をするところから始まるが、小説では最後にル…

ちくま日本文学全集「宮澤賢治1896-1933」筑摩書房(1993年)

折角、宮澤賢治の扉を開いたのだからと、全集を読むことにした。巻末に井上ひさしが「賢治の祈り」と題して書いている。賢治の作品は、賢治その人自身と密接に結びついて読むものだと。年譜を読むと、花巻の商家の生まれだということ、二つ下の妹を失ったこ…

夏目漱石「吾輩は猫である」(初出1905年~1906年)

115年前に出た作品。2021年に暮らす人間が何度も噴き出してしまった。時代を経ても生き残る作品。エリート偏屈の夏目漱石が博覧強記な知識と皮肉を存分に出している。近代小説というと、苦悩のイメージがあり、ずっと遠ざけていたが、これならいける。思いの…

芥川龍之介「羅生門」ちくま文庫『芥川龍之介全集Ⅰ』(1986年初版)

芥川龍之介の本は読みやすい。宮澤賢治と梶井基次郎の次に読んでそう思った。文章に靄のようなものが全くない。冷徹な視点とでもいうのかなあ。私にはわからない。黒澤さんの有名な映画「羅生門」を見たことがあったが、本は読んだことがなかった。本は映画…

梶井基次郎「檸檬」十字屋書店(1933年初版)

無料電子図書で近代小説を読んでいる。さだまさしの「檸檬」が昔好きだったなと思い出し、今なら米津玄師の「Lemon」なんだよなと思いながら読んだ。短いからアッという間に終わってしまった。肺病を病んでいる青年が感じる心の揺れ動きと八百屋の店先で買っ…

宮澤賢治「注文の多い料理店」新潮文庫(1990年初版)

宮澤賢治第2弾。短い童話だったのであっという間に読んでしまった。絵本で読んだことがあったが、最後は覚えていなかった。記憶は曖昧だね。ふたりの猟師が山で迷う。お腹がすいていたので見つけたレストランに入る。靴を脱げや、クリームを塗れなどの注文を…

宮澤賢治「新編 銀河鉄道の夜」新潮文庫(1989年初版)

読むものがなくなったので、無料の電子書籍を読んだ。少し前に宮沢賢治の故郷岩手県にも行ったし、アニメや映画で読んだ気になっていたけど、宮沢賢治の本をちゃんと読んだことなかったし。「銀河鉄道の夜」は、ジョバンニとカンパネルラのふたりの子どもが…

井上靖「後白河院」筑摩書房(昭和47年初版)

井上靖の本を今頃好きになって読んだ。私が良さを理解するのにはこのくらいの年齢が必要だったということだ。重厚なドラマも丁寧な語り口で滑らかに落ちていくから不思議。「後白河院」は4章からなり、周りにいる人たちが、語り部となり、それぞれの目線で…

吉行淳之介訳「好色一代男」中公文庫(昭和59年初版)

井原西鶴の「好色一代男」を吉行淳之介が現代語訳にした本。現代語訳と言っても今の言葉にはなっていない。単行本が出た昭和56年の頃なら読めた人も多いのかなあ。日本人の読解力はきっと今よりはあっただろう。もちろん私は当時でも読解力はなかった。しか…

梅原猛「哲学する心」講談社文庫(昭和43年初版)

古い本を引っ張り出した。50年ほど前に発表された文章をまとめている。梅原さんが亡くなったのは2019年。今の状況をご覧になったらどんなことを言われるだろう。40台の梅原猛の文章は熱い。哲学という、とっつきにくい世界にあたたかい血を巡らせてくれたよ…

池波正太郎「剣局商売 辻斬り」新潮文庫(昭和60年初版)

剣客商売シリーズの第二弾。前回より昔の作品だ。主役の秋山小兵衛も60歳くらいの設定。40歳年下のお嫁さんとのやり取りも艶っぽくて60歳の男性の生臭さがうかがえる。私の読んでいるものが平成11年の44版のもの、多くの人に読まれたんだね。仕事帰りの中高…

池波正太郎「剣客商売 暗殺者」新潮文庫(平成8年初版)

時代小説は私にとっては和菓子のようなもので、大人になってから好きになった。ここ最近は特に楽しみになった。科学モノの次は池波正太郎。剣客商売シリーズの14弾の長編だ。主役の秋山小兵衛が66歳。剣客とはいえ年齢相応の老いものぞくお年頃。今回は暗殺…

福岡伸一「生物と無生物のあいだ」講談社現代新書(2007年)

ウイルス蔓延の今、これを読むには良いタイミングかなと。読んでみたらびっくりするくらい面白い。分子生物学と聞いただけでアレルギー反応をしていた自分が恥ずかしい。しかしこんなに文章が上手な生物学者なんてそういない。だいたいは眠くなって挫折して…

赤瀬川原平「千利休 無言の前衛」岩波新書(1990年初版)

「路上観察」や「老人力」の言葉で知ってはいたが、赤瀬川原平さんの本は読んだことがなかった。最初、なぜ千利休なんだろうと思った。今から30年ほど前の映画「千利休」の脚本を彼が書いていたと知り驚いた。草月流の家元勅使川原宏監督のこの映画を公開当…

アンソニー・ホロビッツ「その裁きは死」(創元推理文庫2020年)

年末年始のお楽しみはミステリー。「このミステリーがすごい」などミステリーランキング全制覇1位と帯にある。むむむ。久しぶりのミステリーなので、はずしたくない気持ちが勝って購入。本格的な推理モノで大満足。最後の最後ですべてのピースがしっかりはま…

吉村昭「三陸海岸大津波」文春文庫(初版2004年)

もともとは昭和45年に中央公論から出された単行本「海の壁」だった。それが文春文庫で出版される際にこの題になったらしい。私の読んだものは2011年5月の第11刷。この時期に多くの人がこの本を読んだようだ。今年はあれから10年。世界中がコロナという災厄に…

森達也「私たちはどこから来て、どこへ行くかー生粋の文系が模索するサイエンスの最先端ー」ちくま文庫(2020年)

森達也さんという人は映画監督で作家らしい。映画も見たことないし、本も読んだことがなかった。これは文系の彼が科学の最先端の研究者たちとの語らいをつづった本。研究者たちのラインナップにひかれて読むことにした。今から5年ほど前、雑誌に連載されて…

白井聡「武器としての『資本論』」東洋経済新報社(2020年)

ラジオの番組に出ていた時の直截な物言いにひかれて、読んでみたいと思っていた本だ。マルクスの資本論なんて、自分には関係がない世界だと思っていた。武器としての資本論、武装しないと生きていけないのかと思ったが、誰でも何かで武装している。さて、武…

太宰治「人間失格」新潮文庫(1952年初版)

読むものがなくなったので、無料の電子図書を読んだ。人気アイテムの上位にあるから今も人気なのだろう。若い頃一度読んだ気がしていたが、何一つ覚えていなかった。主人公の葉さんはお利口な甘ったれ。いつも自分のことで一杯で、演じることで外の世界と関…