平野雅章「食物ことわざ事典」文春文庫(1978年)

古い本だが、勉強になった。食べ物に関する諺をあげて、見開き2ページに文章が並ぶ。食べもの関係だからと、ソフトな読み口を期待していたが、物言いはクールで気難しい先生の話を聞いているかのようだった。甘ちゃんな私の日常には、背筋が伸びるような厳しさもあり、新鮮だった。女の人が台所に立ち、男の人は厨房に入らないのが良いとされていた、昭和の本。今読むと違和感もあるが、それも時代を感じる面白さかと思った。著者は既にお亡くなりになっているが、食に関する権威としてテレビなどにもよく出演されていたらしい。威厳があって物知りだけど、食いしん坊の素敵な人だったのだろうか。食いしん坊では負けないつもりだが、料理はどちらかと言えば苦手だ。母親がそういうタイプだったが、他界するまでは自分は母とは違うタイプだと信じていた。しかし、母がいなくなってみると、自分が同じタイプだったと、はたと気がついた。親子というのはそういうものかもしれない。料理のような文化は、少し前までは、お姑さんからお嫁さんへ、ごく最近までは、母から娘へと伝えられるものだった。そして今はどうなんだろう。時代は変わる。文化も変わる。変化の時代に乗り遅れるのではないかと心配する一方、時代の波に乗らずに、いちずに信じた道を進むのも良いのではないかと思ったりもする。いろいろ考えているうちに人生は夕暮れ。ぼうっと生きていて日没が来た。そういうのが結構幸せなのではないかと思う。