クリスチャン・ボルタンスキー CHRISTIAN BOLTANSKI lifetime 国立新美術館

素晴らしい展覧会だった。自分のフレームが薄くなり、心が浮遊した。なんともいえない、緩やかな衝撃があった。たまたまだった。国立新美術館で時間が出来たので何か見ようと思った。エゴンシーレやクリムトも魅力的だったが、荒涼とした海辺にたつオブジェの写真にひかれて、ボルタンスキーに入った。入るとすぐにミニシアター。古いサイレント映画のような映像で、グロい。エロい。異次元への第一歩。まさにDEPART.。次の部屋はモノクロームの写真がたくさん並んでいた。説明はない。モノクロの写真とブリキの入れ物、暗い照明。誰かの遺品なの?次々現れる部屋はどれも不気味で、でもどこかノスタルジック。心臓の音?が不気味に響き、白いスクリーンに骸骨の影絵が揺れる。小学生のお嬢さんを連れた母子がいた。娘さんは両手で耳を塞いでおびえている。確かに、ここには「死」が満ちている。祭壇に並ぶモノクロの写真には笑顔もあるのに、当てられた照明器具の影で写真は黒く撃ち抜かれていた。タナトスの降臨?黒いコートが積み重なって、ボタ山。コートが尋ねる。あっという間だったかい?って。白い波の花のような紙くずが敷き詰められた部屋。大きなスクリーンには無数の風鈴が揺れている。りんりんりん。パタゴニアの海岸にあるオブジェ。クジラが打ち上げられている。そして「来世」。光が満ちる。電球は毎日5個ずつ消えていくらしい。この日はまだ若い時期だったらしい。まだ明るい。黄金の海は金箔の紙がくちゃくちゃで、その上を黄色い電球がゆらゆら揺れている。どれもこれも心にしみた。今の私にぴったりの展覧会だった。誰もが楽しめるかどうかは分からない。ただ私は満ち足りた。救われた。