「PERFECT DAYS」(2023日本・独)

役所広司さん主演のヴィムベンダースの映画。東京のトイレ掃除をする初老の男性の日常を描いている。主人公平山さんは毎日繰り返される地味な日常を楽しんで生きている。木漏れ日を見上げ、木漏れ日の写真をフィルムに撮る。現像した写真は選別され、箱に入れられる。部屋の押し入れには日付ごとに選別された箱が積み上げられていく。あまりにも淡々と映画が過ぎて行くので、途中1時間位で時計を見てしまった。半ばから、映画が動く。平山さんの人となりが少しだけ見えてくる。モノクロの写真と一緒に心が揺れる平山さん。依然として、地味な日常は続くのだが。トイレ掃除という人がやりたがらない仕事を毎日丁寧に行っていくのは修行のようである。この映画をzenムービーだと称したのもよく分かる。平山さんがこうして生きて行くことになった経緯が知りたかったが、断片が随所に見られただけだった。驚いたことは、平山さんの姪っ子が気に入って持って行った本がパトリシア・ハイスミスの「11の物語」だったこと。去年再読したばかりの本だったので、巡り合うべくして巡りあった映画なのかと勝手に運命を感じた。それもあって、見終わった直後より、じわじわ映画が効いて来る。役所広司の年齢がそう遠くないというのもある。毎日、空気を感じて、毎日、淡々と生きて、毎日、新しい生活が始まる。その繰り返しだけれども、同じ1日は1つもないということなのかしら。禅問答のような映画、映像は美しく、ほんのり甘かった。