藤村由加「人麻呂の暗号」新潮社(1989年)

バブルの頃の本である。万葉集歌人柿本人麻呂の歌を古代の中国語と韓国語から読み解き、隠された意味を探るという本。多言語を操る人たちが書いていて、前半は面白いと思ったが、後半は疲れてしまった。読み進めても話が深まらないからだ。そのうち解釈の仕方がだんだん嘘っぽく見えてきてしまった。でも着眼にはとても心ひかれた。万葉集と一言で言っても200年くらい期間の歌をカバーしていると考えると、江戸時代から現代までの歌という指摘は新鮮だった。長い歴史の中を言語もくぐり抜けてきている。中国語と韓国語と日本語、底流では同じ流れを持っていても何ら不思議はない。今では国境を閉ざしているが、昔から行き来が盛んな地域なのだから。いつか行けるようになったら、隣国をゆっくり見て回りたいなあと思う。そこには遠い異国にはない、何か懐かしい景色があるのではないかと思うのだ。年齢を重ねるとアジアに回帰すると、外国かぶれの先輩が言っていたが、確かに自分もそうなってきた。そしてそれが実に楽しそうなのだ。出かけれられる日が来るのを楽しみに。それまでにじっくり勉強を重ねておきたい。