諸井薫「男女の機微」中公文庫(1989年)

バブル期の本をまた読む。諸井薫さんは出版社の編集者だったようだ。名前は小説を書くときのペンネームらしい。今世紀初めにはお亡くなりなっている。30年前のこの本を読むと、いかに時代が変わったかがよくわかる。雑誌の編集者といえば、当時の最先端の職業の人なのだが、今読むと、親の世代の人と話している気分になる。ただこの時代はこれが一般的な考えだったなあと懐かしく読んだ。上司と若い女性との不倫関係を描いた短篇のいくつかは、男性の幻想が強くて辛かった。このころは女性の地位は今よりずっと低く、まあ、今でも日本では低いのだが、女性はそういうものだとされていた。格段抑圧を感じなかったのは、そういうものだと教育されたのと、バブルで経済が潤っていたからかもしれない。今では嘘のようだが、日本という国には力があった。景気は右肩あがりでみんなイケイケだった。好調の日本経済を支える日本男性たちも幸せだったかもなあと思う。世の中は30年ですっかり変わってしまった。良くなった面もあり、悪くなった面もある。男女の機微は本質的なところで変わらないところもあるが、今では男女という2項対立的に考えることさえ、正しくないとされる。パラダイムシフトというのだろうか、物事の考え方自体に変化が起きてしまった。新しい方がいいというわけでもないし。昔がいいわけでもない。どの時代にも生きづらさは形を変えて存在する。それでも何とか、生きているうちはできるだけご機嫌でいたい。そして、その時が来たら静かにいけると、なおいいな。