星新一「悪魔のいる天国」新潮文庫(昭和50年初版)

ショート・ショートの作品集。星新一といえばこれ。題名が示す通り、毒が聞いてて、読み終えるたびに、シャキッとした気持ちになる。このクールな眼差しが魅力なのだが、私はもう少し湿気があるのが好きだ。イラストが内容にピッタリで、どこかすっとぼけた感じを出しつつも、洗練されていて近未来的。まさに、お話も洗練されている。悪魔がいる天国といえば、見渡せば社会も職場も家族も、そして自分自身も、悪魔がいる天国の如く矛盾に満ちて混沌としている。聖人や善人だけの天国なら、ほとんどの人が行けやしない。そもそも、完全な聖人も、完全な善人もいない。みんな、そこそこずるくて、そこそこ真面目。私もそのひとり。世界中が国境を閉ざしてもう1年半。安心安全と言う言葉がたやすく使われている一方で、本当の安心安全はいつまでたっても手が届かない。マスクの下でイライラした気持ちを噛み締めつつ、不貞腐れてばかりではいけないと反省している。気を取り直したいが、なんだか今日は元気が出ない。そんな日もあるさ。