テレビ朝日「おっさんずラブ」

評判のドラマが終わってしまった。さびしい。田中圭をめぐる男性たちのラブストーリー。予想を裏切る展開で毎回目が離せなかった。何が素晴らしいかと言えば、まず主役の田中圭。どこにでもいそうな30代のサラリーマンのお兄ちゃんでありながら、上司の部長吉田鋼太郎が恋心を抱いてしまいそうな「かわいさ」を持ちり、後輩のイケメン林遺都が心を寄せてしまう「あやうさ」もある。もちろん幼なじみの内田理央が好きになる「男性」でもある。田中圭、今回かなり見直した。そこに吉田鋼太郎、林遺都、眞嶋秀和が絡む。みんな色っぽい。脇役陣の同僚も見逃せない。女性の営業部員役の伊藤修子。ちょっと異様だけど常識的な40代中年女性を演じていた。部長の元妻大塚寧々に「マジいけます」的に迫る歌麻呂役の金子大地のイマドキっぷりもいい。しかし結局一番ドキドキしたのは、牧君(林遺都)だった。思わず投影してしまうのはどうかと思うが、切なくて切なくてドキドキしてしまった。LGBTばやりの昨今、性別も国境も年齢も何でも超えて恋愛していいと思う。ただ何でも公表しなくてもいいと思う。恋心も表に出た瞬間に色褪せる。隠さなければならない関係の苦しみもあるのかもしれない。でも秘密には例えようもない喜びも多い。カミングアウトして幸せになれる人はしたらいい。でも曖昧にしておく自由も欲しい。表面から見えないところに存外美味しい世界は広がっている。口には出さずとも皆がそれとなく知っている、そういう関係がイイなと思うのだが、そういうのはもう流行らないのかもしれないね。

タッタタ探検組合「隣のゾンビ」赤坂レッドシアター

タップを習っている友人に誘われて行ったので、タップのステージだと思っていた。だが開けて見れば、タップは幕間だけで、「墓場のゾンビ」がたくさん出てくるお芝居だった。赤坂見附からすぐの地下にある小さな劇場。演者の表情も、観客のためいきも全部筒抜けなコンパクトな空間。若い頃好きだった小劇場の演劇も最近はちょっと敬遠しがち。気恥ずかしい熱い台詞や非現実に引き込むハイテンションが苦手になった。幕間のタップはかっこよかった。あの音が響くにはちょうどいい空間だった。ゾンビの役者さんたちはとても上手だった。娘さんも、愛人もきれいだったし、イヌも、墓守のオジサンも明るくて面白かった。楽しくてわかりやすく、何度も笑った。でも私は途中で寝落ちしてしまった。疲れていたのだ。開始前のビールもいけなかった。ごめんなさい。いくら若作りしても、いい舞台を寝落ちするようじゃあ意味はない。年々感性が鈍っていく自覚がある。老いは着実に私を包み込んでいく。老いという灰色の雪が体全体、頭蓋骨の中に降り積もる感じ。仕方ないことだが、まだ埋もれたくない。執着。ただひとつ言えるのは、演劇をやっている役者さんたちの眩しさは、灰色の老雪とは対極にあるような気がする。ああ、沈みゆく夕日は思った以上にはやいようだ。

NHK朝ドラ「カーネーション」アンコール

過去の朝ドラの再放送が4月から平日夕方に始まった。「カーネーション」は2011年後半大阪制作。私の大好きな朝ドラのひとつ。尾野真千子出世作で当たり役。おそらくほぼ99%見たはず。あらためて見るとあらたな発見もあり「半分青い」より面白い。母親役の麻生祐未、父親の小林薫、おばあちゃんの正司照枝。素晴らしい。先日は小さい頃からのライバル奈津の栗山千明が髪結いの勘助の母濱田マリのところで泣くシーン。強がりの奈津が髪結いの濱田マリにだけ心を許しポロポロ涙を流し、それを静かに受け止める濱田マリの抑えた演技。こんな神回があったなんてすっから忘れていた。女性が控え目に生きるのが当たり前の時代。岸和田生まれの主人公糸子が、だんじりのように豪快に疾走する。進むほどに壁に当たり、父親にたたかれ泣かされる。悔し涙を何度も流しながらもひたむきに前に突き進む。胸が一杯になる。洋花の癖になかなか萎れないカーネーション。花の命は短いし、踏みつけられて、折れることも多いけど。美しい花は穏やかなプランターから生まれるわけではない。強い心に咲く花の美しさ。戦ったものだけが手にする宝石のようなもの。まだまだ戦いをやめるわけにはいかない。

日本TV「正義のセ」

別に大した番組ではないのである。吉高百合子が新米女性検事で奮闘する話。ペアを組む中年男性事務官が安田顕。面倒くさい主人公の凛々子に手を焼きながらも暖かく見守る。ありそうな筋立てと設定。だが、なぜか気になって毎週見ているのは、吉高由里子のせいだ。ちゃらい三浦翔平もお父さんの生瀬勝久も、吉高の妹役の広瀬アリスも吉高を盛り上げるだけで可もなく不可もなく。すべては吉高由里子なのだ。昔から嫌いだった吉高由里子。長沢さとみくらい嫌いだった。全然見たいと思わなかった。しかし「花子とアン」以来、なぜか見てしまう。好きになったわけではない。ただ目が離せないのだ。美人かといえばそうでもない。しかしかわいい。恋人に振られて泣く姿。誉められて喜ぶ姿、悔やしくて負けん気の強さを出す姿、疲れてへこたれてビール飲む姿。どれも迫真の演技ではないのだが、リアルな「女子のカワイさ」が存在するのだ。そうそう、そうなんだよね。そういうことあるある~と、見ている人間の心に入り込む。吉高の控え目なカワイさが見ている人間の、謙虚なフリして、自分だってまぁまぁイケてる、っていう微妙な自信と結びつくのだ。いやあ、吉高の魅力をここまで突き詰める必要は全くない。どうでもいいことだ。どうも最近はどうでもいいことばかり明るみに出て、肝心のところは闇の中。誤魔化しの持久戦。大衆が飽きて息切れするのを待っている。「正義のセ」さえ見えやしない。だから平民は今夜も吉高見ちゃうんだよ。

オペラ「魔笛」東大和市民会館ハミングホール

国立音大のお膝元のオペラとあって学生達も参加していて若々しくて楽しいオペラだった。演出太田麻衣子と台本大山大輔のセンスがいい。謎の黄色のボディスーツの男性が登場。背中にはHの文字。「叡智」らしい。小太りの男性3人の童子。コミカルな動きに金髪のかつら。ハーモニーは完璧。彼らが舞台に現れるたび笑みがこぼれる。ウサギとリスに扮した小さなこどもたちは、最後にパパゲーナの子ども達になって現れた。かわいくて、思わずジジババの気持ちになってしまった。魔笛はやはり夜の女王。あの高音は迫力満点。映画「アマデウス」を思い出した。「魔笛」は、モーツアルトの最後で最高のオペラらしい。親しみやすいが完成度は高い。考えてみれば、オーケストラのナマ演奏にミュージカル。オペラはとても贅沢な娯楽。敷居もお値段もお高くてなかなか来れないのだか、感性が多少なりともあるうちにもっと見たいものだ。東大和は遠かった。でも日曜日、足を運んだかいはあった。

タクシー運転手 約束は海を越えて (2017 韓国)

韓国で大ヒット、1200万人を動員したという映画。光州事件のお話。ビンボーなタクシー運転手が高額のギャラに惹かれてドイツ人ジャーナリストを乗せてソウルから全羅南道の光州に行くという話。タクシー運転手を演じるのが韓国ナンバーワン俳優のソン・ガンホ。どこにでもいそうな普通の韓国人の中年男性。奥さんを病気で亡くし11歳の娘と暮らしている。娘に新しい靴さえもなかなか買えない冴えないパパ。光州で起こっていることなどなにも知らぬまま、片言の英語でドイツ人と光州に入る。光州は既に軍が支配していた。戒厳軍が学生を虫のように殺していた。目の前の惨劇に、何も知らなかったタクシー運転手は驚き怯える。最初は学生中心だった民主化運動。学生を弾圧する軍の暴力に、市民が耐えられず、怒り、抵抗を始める。警察軍部は交通と通信を遮断。光州の惨劇はソウルの人間さえ知らない。ドイツ人ジャーナリストとの決死の脱出。スリリングに細やかに描かれる。ソン・ガンホはじめ俳優陣の演技が凄い。ストーリーも面白い。80年代の韓国の風や匂いが画面から溢れてくる。光州事件の予備知識がなくても胸が詰まった。80年代の韓国近代史。今の韓国の若者だって知らない人は多いのかも。歴史は大事。時代を見る力は歴史で育まれる。日本でも、こういう映画あるのかなあ。歴史に向き合うチャンス、ぼ〜っと生きてると、簡単にスルーしてしまう。こんな大人じゃいけない。そのうち本当にチコちゃんに叱られそうだ。

フジTV「コンフィデンスマンJP

春ドラマで早々に始まったのがこれ。早くも3回目。長沢まさみ小日向文世東出昌大が出る詐欺師の話。脚本は古沢良太。明るくてスピード感があって「リーガルハイ」みたい。主演の長澤まさみが昔は嫌いだったが、大河ドラマ真田丸」から好きになった。私が変わったのではなく、向こうが変わったのだ。はっちゃけたのだ。長身でスタイル抜群だから、どんな制服も似合う。次から次へとコスプレする長澤まさみを見るのは楽しい。小日向さんは遠い昔に既にはっちゃけているが、東出君は、まだはっちゃけてはいない。でもボクちゃんは、はまり役。困って怒るだだっ子役はお得意。「あなそれ」の波瑠の怖―い旦那さん役もそうだけど、大きな体に隠れた「幼児性」を表現するとき、いい味がでるみたい。視聴率はイマイチらしいが、悪い人が騙されるドラマは痛快。月曜日の夜に求められる軽さだね。嘘に厳しい昨今。急に嘘が溢れ出したわけじゃない。昔から、嘘はたくさんあった。ただ今はそれがみんなにばれるようになっただけ。いや、バラせるツールが発達してしまった。繋がり過ぎたね、私達。誰でも嘘はついている。つかずに生きていけるならそれにこしたことはない。神様は見ている。そう思って嘘はつくしかない。