福岡伸一「生物と無生物のあいだ」講談社現代新書(2007年)

ウイルス蔓延の今、これを読むには良いタイミングかなと。読んでみたらびっくりするくらい面白い。分子生物学と聞いただけでアレルギー反応をしていた自分が恥ずかしい。しかしこんなに文章が上手な生物学者なんてそういない。だいたいは眠くなって挫折してしまうのだから。この本は例示が素晴らしい。DNAやら動的平衡やらも今まで少しも頭に入らなかったことが、するするとおさまっていく。飽きない程度に話の矛先を生物以外にふってくれるのもいい。おかげで最後までスピードを落とさずに読めた。話は、作者が若き研究者としてニューヨークに渡ったとことから始まって、野口英雄の残念な話、実はDNAを見つけていた人、砂上の楼閣など、多彩なエピソードを絡めながら、生命の核心へと近づいていく。PCRについても書かれていて、検査を増やせ云々と知ったかぶりで話していた自分がこれまた恥ずかしい。知れば知るぼど、自分の無知を知る。誰とも会わないおうち時間が増えて、本ばかり読んでいる。本嫌いでもこんなに読めるようになるし。生物嫌いがこんなに感動するし。まだまだ世の中はわからない。どこまで私の生命が破壊と秩序を繰り返してくれるかわからない。ただ冬の木立を飛ぶ鳥たちの声が、今までは気にも留めたことがなかったのに、最近はよく聞こえる。命の終わりは小鳥が知らせに来てくれると、昔誰かが言っていた。戯言だろうが、冬の空を遠くに眺めながら、今日も小鳥を探してしまう。