立花隆「脳死」中央公論社(昭和61年)

立花隆の本を読む。亡くなると偉大な作家は特集される。その特集ではじめて私はその存在と偉業を知るのだが、多くの人が認める本にはハズレがない。この本はタイトル通り脳死の話がぎっちり。なかなか体力のいる本である。今から四半世紀前の本だから、その後変わった点もたくさんあるだろう。そもそも何も知らない私には古くても十分有効。知らないことが多すぎる。数年前に臓器移植にも年齢制限があることを知った。残念ながら、私はもう脳死になっても何も差し上げられない。この本で立花隆は当時厚生省が出した脳死判定の指針に対して、強く意見を述べている。憤っている。当時脳死だと診断された何割かは「脳死」ではなく、まだ脳は活動していた。権威のあるところがいつも正しいわけではない。それを丁寧にしっかりと説明しながら糾弾している。凄い。かっこいい。知識と明晰な分析と巧みな文章は戦う武器だ。今も昔も立派な役所がひどいことをしている事がある。いつでも安定した権力は腐りやすい。この本は読むのは大変だったが、とても勉強になった。脳死判定の知識が今後私に必要かどうかは分からないが、生きているということは、とてもとても複雑な生命の働きのたまものであることは十分分かった。いつか血流が止まり、脳が溶ける日が来る。その時まではもう少し脳を使って命を慈しんでいきたい。