池波正太郎「剣客商売 暗殺者」新潮文庫(平成8年初版)

時代小説は私にとっては和菓子のようなもので、大人になってから好きになった。ここ最近は特に楽しみになった。科学モノの次は池波正太郎剣客商売シリーズの14弾の長編だ。主役の秋山小兵衛が66歳。剣客とはいえ年齢相応の老いものぞくお年頃。今回は暗殺者が息子大治郎を狙っているという話。平成10年ごろのテレビ版では、藤田まことが小兵衛。息子は渡部篤郎だったらしい。私のイメージとはちょっと違う。主人公秋山小兵衛は孫ほど年の離れた嫁をもらって今は悠々自適な隠居生活。定年間際の男性が仕事帰りに電車の中で読むには最適な本かもしれないね。この本が単行本で出たのが昭和60年。今から35年前には悠々自適な定年後の生活も可能だったかもしれない。だが、これからはそれができる人は少数派になりそうだね。時代が変われば価値観も変わる。それでも変わらぬものが時代小説にはあるのだろう。時代劇がテレビから消えてきた今も小説の世界では変わらぬ人気がある。どこにも行けないのなら鎖国の今、日本を堪能するのも悪くない。いや、前向きに楽しもう。和菓子も時代小説も。