岡田節人・南伸坊「生物学個人授業」新潮文庫(平成12年)

岡田節人先生のことは全然知らなかった。生物系の軽めのお話なら簡単に読めそうだと新幹線のお供に持ってきたのだが、浅はかさだった。もう20年前の本だしと、たかをくくっていた自分が恥ずかしい。「知る」とは「知らない」ことを知ることだ。岡田節人先生が一般人南伸坊さんに講義するという形式で、取っつきやすい事から、生物学の深いところまで語る良い本だった。最後の方に循環の話がでてきた。体を血が巡るように、世界も循環している。生物学の世界も、フィールドから遺伝子や分子の世界へ、そしてまたフィールドへと循環しているらしい。ファッションもそうだし、私たちの生涯もまた赤ちゃんに帰っていく。私たちは無限の渦巻きの中を生きているのかもしれない。やかて生命体としての私は死んでいくが、世界は変わらず渦を巻き続けて行くのだろう。そう思うと、なんだか安心して死ねる気がする。