吉行淳之介訳「好色一代男」中公文庫(昭和59年初版)

井原西鶴の「好色一代男」を吉行淳之介が現代語訳にした本。現代語訳と言っても今の言葉にはなっていない。単行本が出た昭和56年の頃なら読めた人も多いのかなあ。日本人の読解力はきっと今よりはあっただろう。もちろん私は当時でも読解力はなかった。しかし、現代を生きる私にはスマホがある。難しい言葉は簡単に検索して読むことができる。スマホ吉行淳之介のおかげで「好色一代男」はとても面白く読んだ。特に前半の世之介誕生秘話から、財産を相続するまでが特に面白い。色事の達人はやはり早熟なのである。還暦60歳で最後は好色号という船に乗って女護島を目指して終わる。本編のあとに、訳者吉行氏の覚書がついている。これを読むと、この「好色一代男」を巡っての学会での騒動やら、現代語訳化する困難さやら、執筆当時の西鶴に関する謎などが分かる。なるほどなあといちいち感心し、目を丸くした。知ることの楽しさは、人生の後半を走っている私にも格別な喜びをもたらしてくれる。ありがたい。訳者吉行淳之介はよく知らないが、最近お亡くなりになった、「ねむの木学園」の宮城まり子のパートナーだったはず。ご自身も相当色っぽい人だったに違いない。その道を知らずして世之介を語れまい。不倫で謝罪会見などをしている現代の野暮天たちにとっては、もう異星の話かもしれない。わずか300年前の話なのに。まあ「わずか」かどうかは人によるけどね。