古畑種基「法医学ノート」中公文庫(昭和50年初版)

法医といえば、ドラマ「アンナチュラル」や「監察医朝顔」が思い出される。この本が出た昭和50年には著者は既にお亡くなりになっている。あとがきを見ると単行本として出版されたのは昭和34年となっているから、今から60年も前の話である。当時、科学的捜査がまだ少なかった頃に法医学者として大活躍されていた著者が書いた一般向けの本である。毒殺に関わる物語や、毒殺は女性が企てることが多いなど面白い。ただ時代を感じてしまうのは、著者の物言いのいくつかが今では差別的な感じがするからだ。最近聞き慣れていないせいか居心地が悪い。尊大な物言いに聞こえてしまう。時代が変わればいろいろ変わる。当時は問題ないとされていたのだから仕方ない。過去に遡って、銅像を倒したり、名前を変えたりしているアメリカを見ると、私はやりすぎなのではと思ってしまう。まあ、私がわかっていないのかもしれないのだが。この著者の素晴らしいところは、法医学者としての矜持だと思う。白を白といい。科学を持って毅然として物を言う。かっこいいなと思う。力に飲み込まれたり、利に惑わされたり、目をつぶってしまったりしない。ああ、私は一体何を守っているのだろう。もう守るものは何もないはずなのに。